アメリカクライミング遠征② インディアンクリーク

ユタ州インディアンクリーク遠征の記録(望月記)

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アメリカ遠征の後半はユタ州インディアンクリークへ。ユタ州はとにかく広大で、州都ソルトレイクシティからインディアンクリークまでの距離は約400キロ、今回の滞在の拠点となった最寄りの街、モアブからも100キロ以上離れている。インディアンクリークの岩場と一言で言っても、州道211に沿って20キロ以上に数多くのエリアが点在していて、そのスケールの大きさは日本の感覚では理解するのが難しいほどだ。

ヨセミテ国立公園から丸一日かけてバス、鉄道、飛行機を乗り継ぎユタ州ソルトレイクシティへ。暑かったカリフォルニアから高地のユタ州へ移動すると、一気に寒さが身にしみた。周囲の山には既に降雪があるようで気候の変化に体が順応できない。翌日、車で丸一日かけて移動し、現地に到着した時は真っ暗だったので周囲の景色は全く見れなかったが、翌朝起きて周囲の風景に驚嘆した。アメリカのスケールの大きさは頭では分かっていたつもりだったが、広大な荒野と、無数に聳え立つ赤茶けた巨大な岩塔にあらためて度肝を抜かれた。

このような光景が延々と広がる

【Super Crack Buttressエリア】

恐らくインディアンクリーク全体で最も人が集まるエリアと思われる。整備された駐車場には快適な公衆トイレ、掲示板もあり、週末にはクライマーにフリーコーヒーを振る舞うボランティアも来ていた。駐車場から岩場までのアプローチも近い。

・Super Crack 5.10 

(望月) FL 出だしは少しボルダーチックでムーブに工夫がいる。テラスに立ったら、そこから20m以上スッパリと割れた気持ち良いハンドクラック(キャメ23サイズ)をひたすらジャミングしてどんどんロープを伸ばせる快適ルート。キャメ22個、キャメ35個使ったが、かなりずらしながら登ったので各々もう一個ずつあった方が良いかも。

(畠山) OS 出だしのプロテクションとムーブ解決に苦労したが、後は快適なハンドとフィストの好ルートであった。

・The Wave 5.10+

(望月)ワンテン 前半の核心は結構悪いレイバックで気合いで突破。そこからはしばらく快適に登るも、最後のハングで力尽き落ちてしまった。ただ、5.10台までは悪いポイントがあってもなんだかんだレストできるフットスタンスやテラスがあるようだ。

(畠山)FL 前半の0.5-0.75サイズの核心部で苦労したが気合で突破した。他の11前半と比較しても難しく感じた。見た目も特徴的でオススメのルート。

・Coyne Crack 5.11+  

(望月)TR × 壁のど真ん中、一直線に切れ込んだとても美しいクラックだがサイズがとても悪い(0.751番がひたすら続く)。何度もトップロープで練習したが、結局出だしの0.75サイズで行き詰まり、断念した。

(畠山)RP 計5トライ。今回の遠征で一番本数出したルート。出だし数メートルが核心で、比較的得意なサイズの0.75サイズも足が悪く何度も落ちた。本数を出す価値のある綺麗なスプリッタークラックであった。

Coyne Crack(5.11d) を登る畠山

・Incredible Hand Crack 5.10

(望月)OS スーパークラックと並ぶ人気ルートで、常に誰かが登っている。核心のハング越えは快適ハンドサイズと思いきや、意外にスカスカでびびるが、パワーでなんとか越えた感じ。手が小さい人には結構厳しいかもしれない。そのあとは快適だった。相当登り込まれて岩も若干削れているが、インディアンクリークのザ·クラシックルートという趣きで、一度はやるべき素晴らしい課題だと思う。

・3AM crack 5.10

(望月)FL これも大人気クラシックルート。顕著なコーナークラックでハンド~フィストサイズ、上部はワイド気味。傾斜は垂壁まででそれ程難しくなさそうに見えたが、クラックが全体的に奥開きでカムセットしづらいのと、ルートが長く同じサイズ(キャメ23)が続くのでカムセットの間隔が悩ましい。最後はワイドムーブも出てきて充実した。

(畠山)OS 女性の苦手な3番サイズのルート。ワイドちっくなムーブで楽しく登れた。

3AM Crack(5.10)

【Battle of the Bulge Buttressエリア】

ここも大人気エリア。南面で昼間は暑いが、途中から現地の気温が下がり、逆に日当たりの良いこのエリアが一番快適となったので何度も通った。ルート数47

・Swedin Ringle 5.12-

(畠山)×× 0.75-0.4の右上クラック。駐車場から見えるルートでこのルートを目当てに多くの人がトライしていた。力不足でムーブを固めることもできなかったが、触る価値のあるルートであった。

・Railroad tracks 5.10-

(望月)FL  出だしタイトハンドだが4mほど登るとレッジを掴め、その上からは右にもハンドクラックが走り、元々のクラックはフィンガーサイズのコーナーとなるので、左右のクラックを両方使える贅沢なルート。グレードも易しいし短いのでアップに良かった。

(畠山)OS

・Quarters of a Man 5.11+

(畠山)OS 長さ40メートルのシンハンドが続く綺麗なコーナークラック。傾斜のあるパートも多く、苦手な0.5のパートは苦労した。最後数メートルはフェイスムーブが必要とされた。クライミングを始めて長くないが、1番集中して、力を出し切ることができたルートであった。5つ星のルート。

・Cave Crack 5.10+ 

(望月) 2トライでRP 涼しい洞窟内のルートで雰囲気はとても良いが、キャメ1サイズがひたすら続き、シンハンドのジャミングに慣れないと厳しい。RPできた時に気をつけたのは左右どちらの手も登る時は順手のハンドジャムを効かせる事(カムセットも極力左手の順手ジャムを効かせて右手でする、厳しい時だけ右手を逆手ジャムして左手でセット)、フットジャムを丁寧に極める、時間をかけずにテンポ良く登る、といったことか。なおキャメ15個使ったが、この数では最後かなりランナウトする。なんとか耐えてずらして登ったが、あと2個は欲しかった。

(畠山) OS インスタ映えのする綺麗なルート。シンハンドが続くので、持久力が必要なルートだった。洞窟内にあるため、クライマーの苦しい声が洞窟内に響き渡っていた。

Cave Crack (5.10+) 洞窟に差し込む幻想的な光の中を登っていく

・Cal and Andy’s route 5.10+ 

(望月)FL  フィンガー、ワイド、チェンジングコーナー、バルジを越えて終了点と色んな要素があって面白い。前半(フィンガー~ワイド)はフットホールド等も多く総じて快適。後半のチェンジングコーナーからの這い上がりと最後のバルジ越えはムーブがあって少々悪いが、ハングしててもハンドジャムがよく効いたので最後はパワーで押し切った。

(畠山)OS あまり登られていなく砂ぼこりで登りづらかった。色んな要素が出てくる楽しいルートであった。ケーブルートの横にある。

Cal and Andy’s route (5.10+)

・Our piece of real estate5.11-   

(望月)× 出だしの#0.75~タイトな#1サイズが悪く、右壁のホールドやステミング等も試みるが結局落ちてしまいワンテンで突破。もうしばらくは苦しいシンハンドだが、クラックが少しずつ広がり、凹角のワイド登りなども駆使して快適になる。その後は凹角の中の小ハングを越え、最後の10m弱は#3サイズを快適に登り終了点へ。内容が変化に富んでいて面白かっただけに、オンサイト出来なかったのが悔しい。

・Big Baby 5.11 

(望月)トップロープ× イレブンのワイドにトップロープで挑戦させてもらう。フィストが効かなくなるキャメ45パートで何度かテンションかけながらもなんとかトップアウトした。ワイドの総合力が問われる良いルートだった。次の機会にはぜひリードしてみたい。

・Crack Attack 5.11- 

(望月)OS 序盤のワイドから中盤の大きなハングを越えるまでは、傾斜が結構強くフェイス的だが難しくはない。ハング越えも予想外にガバを掴んでいけるが、核心はその後のキャメ10.75サイズのジグザグクラック。幸い、何手か悪いムーブの後はレストポイントがあるので、そこで態勢を整えて次のムーブ、カムサイズ等を確認する。それを三度くらい繰り返して最後の難所はジグザグに走るクラックを半ばフェイスムーブでやっつけた。上部はクラックサイズも一様ではなく、最後まで温存していたリンクカムの有り難さがよく分かった。今回のインディアンクリークでは、オンサイト成功も含め、一番登れて嬉しかったルートとなった。

【Donnelly Canyon エリア】

Super Crack Buttress エリア等と駐車場を共有しており、ここも人が多い。ルート数34

・Generic Crack5.10- 

(望月)FL とにかく快適なハンドクラック。大人気ルートでいつも順番待ちとなっている。#2サイズがひたすら続くのでどんどんランナウトして高度を稼ぎカムを節約する。6個用意したが結局5個で賄えた。たまに出てくるワイドサイズが良いアクセント。

(畠山)OS カムの節約が重要。一部ワイドテクニックも必要になる楽しいルート。

Generic Crack (5.10-)

【Scarface エリア】

インディアンクリーク全体のほぼ中央付近に位置しており、絶景を眺めながらクライミングできる。南面で暖かい。ルート数61

・Scarface 5.11-  

(望月)計3回でRP フィンガーからハンドサイズの美しいスプリッター。出だしから厳しく最初はテンションかけまくりだったが、他のルートでシンハンドジャムに慣れてから再度トライし、計3回かかったがなんとかRPできた。核心は苦手なキャメ1サイズのクラックで薄かぶりを越えると、少し傾斜が落ちて快適なハンドジャムとなる。

(畠山)計2回でRP 初回トライはインディアンクリーク2日目でプロテクションに不安がありテンションをかけてしまった。分析して手順を考えたらこなせるムーブであった。この壁を代表する綺麗なルート。

Scarface (5.11-) ロケーション、内容ともに素晴らしい

・Black Uluru 5.10+  

(望月)× 30m以上と長く、出だし、中間部、ダメ押しに最後にレイバックパートが出てくる。悪いパートの後には良いスタンスで休めるので10台なのだろうが、レイバックでランナウトするのはメチャクチャ怖く、スタミナ的にも厳しかった。フィジカル、メンタルの両方が問われる。最後のレイバックで力尽き、非常に残念。

(畠山)OS   レイバックの経験はほとんど無かったが、気合いで登った。長くて、やりごたえのあるルートであった。

・Big Guy 5.11-

(畠山)計2トライでRP  6番ワイドクラックが40メートル続くルート。1回目のトライは、Quarters of a Man 5.11+を登った後で、タイミングを完全に間違えた。2回目のトライはロープの流れも考えて落ち着いて登ることができた。

Big Guy (5.11)インディアンクリークを代表するワイドクラックの一つ

【Cat Wallエリア】

駐車場は、州道211からゲートを開けて車を入れ、ダートを1キロほど走ったところにある。そこから15分ほど急坂を登ると岩場の取り付きへ到着。ここも規模が大きいエリアで、90本以上ルートがあり、取り付きを左右にトラバースして壁全体を見るのに、おそらく30分以上はかかるのではと思われる。南面で日当たりは良かった。

・Kitty Litter 5.10+

(望月)×  出だしのレイバックムーブが厳しくてテンションしてしまったが、5m登ればそこから先は快適なハンド、ワイド、ステミングでこなせる。

・Fat Cat 5.11- 

(望月)OS   出だしが0.75サイズで、その上にあるワイドクラックに入るまでは悪いが、ワイドクラックはあまり難しくはない。ワイドが終わった後はキャメ23の快適なハンドクラックが終了点まで続く。イレブン台としてはかなり登りやすい方かと思われるが、インディアンクリークに来て初めて、しかもオンサイトで5.11を登れたのはかなり嬉しかった。

・Kool cat 5.11

(畠山)× #0.5サイズのレイバックのルート。左向きのレイバック体勢には慣れていないため、RPすることができなかった。レイバック技術を学ぶのに良いルートだと思う。

Reservoir Wall エリア】

北面で涼しい。ここも人気ルート多数だが、多少他のエリアと比べ、壁の崩壊が進んでいるような気がした。今回は滞在途中から現地の気温が一気に寒くなったので、結局一度しか行かなかった。ルート数61

Reservoir Wall 全景

 

・SUMO 5.10  

(望月)OS 傾斜は垂壁までだが、核心部は#5#6サイズがひたすら続くまワイド真っ向勝負のルート。1時間以上かけてどうにかオンサイトしたが、ルートも36mとかなり長く非常に疲れたが、充実したクライミングができて満足度は高い。

SUMO(5.10) 写真ではわかりづらいが、中盤〜後半はひたすらワイドクラックが続く

・Excuse station 5.11

(畠山)OS #1#0.75サイズのルート。まっすぐ伸びる綺麗なスプリッターのクラック。気持ちの良いクライミング となった。

Excuse Station(5.11)

 

【The Optimator エリア】

州道211から枝分かれするダート道を走り、途中で車ごと川の浅瀬を横切った先にあるエリア。なので川が増水したら車では渡れなくなるとのこと。川を渡った後も結構悪い道を走るので、車高が高い四駆じゃないと結構厳しいと思う。ルート数47

・Casey’s Route 5.10+. 

(望月)OS 前半は登りやすいハンドクラック。途中から左右2本のクラックが使えるが、核心部では両方ともサイズが悪くなるので、ジャミングもムーブを工夫してギリギリ乗り切った。終了点からさらに登ると5.11+10mほど上にもう一つ終了点あり)とのことだが、明らかに岩が脆くて危なそうだったので、諦めて降りてきた。

・Neat 5.10

(畠山)OS インディアンクリークの裏表紙にもなっているルート。フィストサイズのハングパートのこなし方が難しかった。この岩場のアップにオススメのルート。

・Soul fire5.11-

(畠山)OS 快適な1番サイズのルート。最後は細くなり油断ができなかった。

【現地での生活の紹介、感想など】(望月)

·気候

滞在したのは10月下旬から11月上旬にかけて、約2週間。(望月のみ、その後別パートナーと合流し数日延長した)ちょうど冬が始まるタイミングだったらしく、数日に一度寒気が入って天気が荒れて雨か雪に降られ、その度に気温が下がるので後半は結構修行だった。なお岩質が砂岩で柔らかいため、クライマーの安全とクラックの保護のため一度雨が降ると、乾くまで(最低24時間以上)はクライミングは禁止されている。砂漠だけに日が出る前は寒いが、日光を浴びると一気に気温上昇して暑くなる。夜は冷え込むので無数の星空の下での焚き火は最高だった。(砂漠なので薪は貴重だ)

·レンタカー

ヨセミテもそうだが、アメリカでクライミングをするならレンタカーは必須装備だ。円安とインフレのためかなり痛い出費となったが、大型のSUVJeep Grand Cherokee)を20日借りてトータル1800ドル程度だった。(円安ドル高のピーク時期だったので、27万円くらいかかったはず)ヨセミテで左ハンドル右側通行に慣れていたおかげか、長距離運転は割と楽しかった。

·キャンプ生活

現地にはクライマーが常にそれなりの数滞在しているが、キャンプサイトは無人で当然食料など買い出しはできず、また水の調達もできないので数日に一度は街に戻って食料や水を入手し、シャワーを浴びてリフレッシュしていた。また、岩場もキャンプ場もネット環境は全くないのでクライマー同士で連絡を取り合ったり、天気予報を確認するのが大変だった。

有料キャンプ場は一泊15ドルで、整地されておりトイレもあるがいつも混雑していて空きがなかなかない。無料キャンプサイトも結構快適だったがトイレがないのがネック。

また、偶然同じ時期に日本からかなり大勢のクライマーが現地入りしていて、10人以上と知り合うことができた。なぜか山梨県民率が非常に高かったが、聞くと皆さんあちこちから瑞牆山の近くに引っ越して現在では一大コミュニティとなっている。山梨移住、かなり良いかもしれない。

荒野の中のキャンプ場で

【インディアンクリークの感想】

(畠山)インディアンクリークでのクライミングは、遠征前から目標にしていたBig Guy RPQuorter of a Man OSと成果のあるものになった。ダイナミックなCragsでのクライミングは全てのクライミングが楽しく、今後のクライミングのモチベーションをあげるものとなった。多くのクライマーと知り合えたのも、クライミングの視野を広げるきっかけとなって良かった。またこの岩場を訪れて、今回の遠征で落とせなかった課題を落としていきたいと思う。

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