大峰・七面山南壁マルチピッチクライミング Long Hope(12p、5.11-)

  • メンバー 

 望月、楠瀬 (記録:望月)

  • 行動時間

10/28  10:30駐車場〜13:30ビバーク地(七面山東峰の東側稜線上)テント設営〜14:00南壁アプローチ偵察〜15:20南壁取り付き〜16:30ビバーク地

10/29  4:30ビバーク地〜5:30南壁取り付き〜6:30登攀開始〜16:30七面山東峰山頂〜17:00ビバーク地、撤収〜17:30下山開始〜20:30駐車場

  • 報告

大峰山脈の奥深くにある七面山の南壁は、落差350m近い日本有数の大岩壁である。2019年にこの壁の中央を貫くフリークライミングルートが開拓発表された時から登りたい憧れのルートで、以前別のパートナーと計画したこともあったが、コロナ禍や他の事情で中止したままなんとなくウヤムヤとなってしまっていた。

その間にネット上でちらほらと再登記録が出たり、知り合いも何人か登って話を聞く機会もあり、今の自分のクライミングレベルならば、しっかりしたパートナーと組めば登れるはずと思い、再びモチベーションが高まってきた。楠瀬氏に相談したところ二つ返事でOKしてくれたので、壁のコンディションが良さそうな晩秋の時期を狙って計画を立てた。

初登時は壁の下を流れる沢を経てのアプローチで、沢筋にBCを設営し、翌日に登攀〜稜線歩きからのBCへの下降、最終日に沢下降で下山という2泊3日で発表されていたのが、七面山の北側登山道から山頂を経て壁の取り付きへ直接回り込む(稜線から1時間程度の下降で行ける模様)というアプローチが現在は主流らしい。夜中に出発してワンデイで登攀した記録もあったのだが、そんな強行軍は体力的にも辛いし、初見で暗い中、壁の取り付きまでの下降は難しい(ルートを外すと危険)と考えて、初日に下降点近くにBCを設営し壁の取り付きまでの下降路を偵察し、翌朝暗いうちに降りて、明るくなったと同時にスタートすることにした。ただしBC付近では水が汲めないので、この作戦だと初日は水を2日分(1人あたり3L)担いで行かねばならない。

10/28

早朝に大阪を出発。この週末は雨はなさそうだが、寒気が入り風も強い予報だった。林道が結構荒れているとの情報もあり、かなり手前から歩く羽目になるかもと心配していたが、なんとか車が入れるどん詰まりまで乗り入れることができ、アプローチ開始。初っ端にいきなり20mほどの渡渉があるので、ここだけは長靴などを使うといいかもしれない。1時間半ほど廃林道をジグザグに登ると、七面山登山口と書かれた看板が出てくる。登山道は割と歩きやすく、トータル3時間ほど(標高差900mほど)を登り、七面山東峰を通り過ぎて大峰の主稜線(奥駈道)に合流する手前の鞍部の風を避けられるところにテントを張った。

アプローチ途中の廃林道より

 

疲れたので少しのんびりしたかったが、あまり時間に余裕がないので、スマホのGPSを見ながら南壁取り付きまでの下降路の偵察に向かう。事前に聞いた話では、ピンクテープがかなり密につけられているとのことだったが、最初の一個目が見つからず、踏み跡らしきものも不明瞭なので、急斜面の笹ヤブ尾根やガレガレの沢をウロウロ。結局稜線から100m近く降りたあたりで尾根筋の木に巻かれたピンクテープを発見し、そこからは右下へ点々と続くテープを追って2回ほど沢をまたぎ、壁の取り付きまで行くことができた。(なお、下降途中に少し寄り道すれば沢筋で水を汲めることが判明)取り付き近くの岩小屋にロープその他の登攀装備をデポし、BCへ戻る。翌朝も早いし疲れていたので、夜はすぐに寝てしまったが、夜はかなり冷えて稜線上はずっと強風が吹いており、翌日が思いやられた。

アプローチ下降路のGPSログ

 

10/29 

3:30過ぎに起床し、4:30に暗闇の中アプローチを開始する。前日偵察していたとはいえ、やはり暗い中ではピンクテープを見つけるのに苦労する。偵察の際につけたスマホGPSのログが役に立った。取り付きには6:00前に到着したが、まだ暗いのでしばらく時間調整。明るくなった6:30にGO UP開始した。下部岩壁は3ピッチあり、ここまでの傾斜は大したことないが、やはり壁が大きく、毎ピッチだいたい50mはロープが出るので遠近感がおかしくなる。

1P目 5.10-(望月)

 ルンゼ状で濡れると悪そうだが、幸い壁が乾いており快適だった。

 

2P目 5.8 (楠瀬)

 傾斜はないが結構ランナウトする。

 

3P目 歩き(望月)

 ルンゼに沿って右上したが間違いで、ブッシュ直上が正解だった。

ここからいよいよメインの壁が始まり傾斜も強くなる。南壁で風は気にならないが、天気は曇り空で気温が全然上がらないのが辛い。二人ともチョークバッグにホッカイロを仕込んで指を温めていた。

4P目 5.11-(楠瀬)

 ルートが蛇行しロープが重い。ムーブ的にはこのピッチが実質いちばん難しいと思われる。核心はクリアしたが、残念ながら上部でワンテンかかってしまった。

 

5P目 5.10+(望月)

 岩が多少脆いが、良く確認しながら登れば問題なし。

 

6P目 5.10 (楠瀬)

 5P目よりもグレードは易しいが、こちらの方が悪く感じた。

次の核心は8P目の5.11-で、7P目終了点で一休みできるように望月が7P、8Pを両方リードすることになった。相変わらず気温は上がらず、高度が上がったせいか冷たい風が吹いてきて辛い。

7P目 5.10-(望月)

 このピッチは比較的短くムーブも快適だった。

8P目 5.11-(望月)

 出だしと後半に2回ハングを越えるが、その手前でしっかり休んでムーブを確認できるので、グレード5.11-はしっかりあるが4P目よりは登りやすいと思う。1時間近くかかってしまったがOSでき、ほっとした。終了点で勝手に今日の仕事は終わった気分になる。

 

9P目 5.10(楠瀬)

 真上のハングを避けて左から越えるのだが、越えた後のトラバースがちょっと悪く、ランナウトしているので緊張する。その後は傾斜が落ちて易しくなるがロープが重い。

10P目 歩き(望月)

 FIXロープに沿って草付きを右上する。終了点にルート名、開拓メンバー名が打刻された金属のプレートが取り付けられている。

 

11P目 5.10-(楠瀬)

 山頂はもうすぐ。壁の傾斜も落ちて快適だったが、風が強くビレイ中は寒かった。

12P目 歩き(望月)

 11P目終了点から5mほど登ったところに開拓者全員の名前が打刻された金属プレートが取り付けられたビレイ点があり、そこからは山頂まで踏み跡が続いている。ロープが重くなるので途中でピッチを切り、フォローが登った後にロープを解いた。

 

16:30に山頂(七面山東峰)に到着。取り付きからちょうど10時間かかったことになる。さすがに疲れたし、上部はかなりの強風で一気に体温が奪われる。急いで写真を撮ってBCへ戻ったが、山頂から縦走路までの短い下りの道が意外にわかりづらく、少し迷ってしまった。

 

なんとか日が暮れる前にテントを撤収して下山を始めるがすぐに暗くなる。行きは全然難しくなかった稜線の道が暗い中では案外わかりづらいので、時にGPSを確認し、ケモノ対策で笛を吹き鳴らしながら下山。駐車場に着いたら20:30、16時間行動がようやく終わった。

その長さだけではく、内容もとても素晴らしいルートで、紀伊半島の山奥に長期間通い詰めてこのルートを完成させた開拓メンバーの苦労を思うと感謝しかない。今回、当日はずっと寒さとの戦いだったが、壁自体は乾いててコンディションは良かったので、充実した登攀ができた。また、まだ岩の表面はかなり脆いところもあり、登攀中に岩が剥がれたりもしたので、落石のリスクを考えると当日他パーティがおらず壁貸切りの状況で登れたのはラッキーだったと思う。

使用ギア:

ロープ シングルロープ64m + シングル懸垂下降時のロープ引き用4mmスリング20m

シューズ 2人ともTC pro使用

クイックドロー 18本(うち12本はアルパインドロー、それでもルートが蛇行するとロープは相当重い。全てアルパインドローでも良かったと思う)

ビレイデバイス グリグリ(フォロービレイは折り返しのボディビレイで行った)

指先の冷え対策 チョークバッグにホッカイロ持参

(前日の下降路偵察の際に残しておいたgeographicaのログが当日とても役に立った)

 

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