越後 御神楽岳 湯沢ダイレクトスラブ

日  程:10/14
メンバー:L天久卓也、松尾亜希
ルート :越後 御神楽岳 湯沢ダイレクトスラブ

タイム:6:30 蝉ヶ平登山口歩き出し-7:30 湯沢出合 – 14:00 湯沢の頭 - 16:30 湯沢出合 - 17:30 蝉ヶ平キャンプ場

会津と越後の国境付近は登山者も少なく、豪雪に磨かれたスラブや、深く切れ込んだゴルジュなど、野性味あふれるエリアが広がる。マイナーを志向し記録の少ないルートに魅かれるオレは、下田川内、鬼ヶ面山、御神楽岳など、この周辺には何度も足を運んだ。
大阪に来て環境が変わり、以前よりも山に行く頻度は増えた。仲間に恵まれ、黒部や白山に足を運び、ハートが燃えるような山行だっていくつもやってきた。でも何かが満たされない。なんだろう何だろうと自問する日々。

例会後の飲みの席だったかでモッチーの新潟ジロト沢の話になり、ふと松尾さんが「あーいうの行きたいなぁ」と漏らした。そうだ。これだ! オレが空ろになっていたのは。憧れのまま封印された越後の山々が心に蘇ってきた。
「御神楽岳行きましょうよ!」「湯沢ってとこにデッカイスラブあるんですよ!」「谷川なんて目じゃないですよ!!」と自分の趣味全開な勧誘だったけど、二つ返事で「行く行く! スラブの沢に行きたい!」と応えてくれ、心が爆発しそうになった。久々に越後マイナールートへの道が開けた!

今回は東京起点。久々に自分の車での山行。飛行機でとんできた松尾さんをピックアップし、そこから千葉、茨城、福島と走り抜け、熊が出るという高速PAで車中泊し、6時には登山道へ到着した。

本来は湯沢ダイレクトスラブと水晶尾根の日帰り2本の予定だったけど、日曜の予報が絶望的になったので、昔からあたためていた本命1本に絞った。
アプローチはかつて何度も歩いた道。初めてじゃないのに何故だか胸が高鳴る。小一時間で湯沢の出合に到着。ここからはまだ大スラブは見えない。
入渓してしばらくはナメの穏やかな渓。まわりは雪国特有の草つき斜面が展開する。徐々にその斜面が高くなっていき、前方を塞ぐように岩峰群が覆い被さってくる。いよいよだ。物凄い威圧感。右岸の岩峰を切り裂く珊瑚クラック。本流は右折し、ゴルジュの入口に25mの滝を落としている。

左が珊瑚クラック 本流は右だがここからは見えない

湯沢ダイレクトスラブの記録はWEB上で散見するけど、すべてが初夏のものだった。下部の情報がなく、「ゴルジュ通過は大丈夫かな。泳ぎは無いかな?」と松尾さんは車中からずっと心配していた。登攀ライン、難易度、何が出るか判らない。「だからいいんですよ。」なんて言いながら一応尋ねてみた。
「リードする?」「最初だからね。リーダーに任せるよ。」とまっとうな回答。この滝は程よい緊張感で登れた。

ひとつ登ると未知への不安も解けてきた。滝の上に続く廊下は短く屈曲し、小気味よいテンポで駆け上がる。この谷底で唯一「楽しい沢登り」って感じの場面だった。

廊下を抜けると空が広がり、釜を持った35mの滝が登場。これも登れそうか?と思い、ロープ出して右のバンドから取付いてみたものの、抜け口に向かうラインはツルツルなうえ、プロテクションが全く取れない。ここで突っ込んでも時間食うだけだし、格好つけずにやめとこう。

高巻いたラインは草付き交じりのスラブ。沢床から高い位置をフリーでトラバースしていく。足元に緊張しながら前方を見上げた時、初めて湯沢の全容が目に飛び込んできた。恋焦がれた姿がそこに待っていた。
「キター!」この興奮。松尾さん、判ってくれてるかな? と思ったら、ちゃーんと喜んでくれてた。

湯沢の全貌が見えた!

しかしデカイ。。。 二俣から左右に広がるスラブ。360℃は言い過ぎだけど、そのくらい視界すべてがスラブで埋め尽くされている。中央には三角スラブと呼ばれる白い壁が異様な雰囲気を放つ。稜線はまだまだ見上げる高さで、左俣から派生する3本のスラブが強傾斜の壁に貼り付いて見える。あれを登るんだと思うと気分があがってくる。でもその前に下部をどうやって抜けるか。

草付きにしがみつきながらフリーで二俣付近に復帰。本流である左俣はすぐさま25mの滝となって二人を通せんぼする。
水流の乏しい滝は立っているうえにヌメヌメ。登攀はムリなので二俣を分ける中間尾根の岩峰を登る事にする。「ってか、ここしかないやん。」

●1ピッチ目 50m
クライミングシューズに履き替えて、傾斜が一番ゆるそうなルンゼ状にロープをのばす。泥が乗ったヌメル壁はカムもハーケンも受け付けず、15m位ランナウト。カンテに移動してやっと1本ハーケンを打ち込む(浅打ち)。どうせ効かないと分かっていてもホッとする。難しくはないけど雪崩が運んできたゴミや浮石だらけで神経を使う。上部では草を掴んでズルズルの斜上バンドを登り切り、しっかりした灌木を掴んで一安心。ちょうど50mで届いて良かった。

●2ピッチ目 35m
傾斜は落ちたけど小尾根の先が見えない。念のためスタカットを切ろう。小尾根を乗っ越せば沢に戻れるやろ、という予測は見事に裏切られた。ゴルジュの中には登れない滝が連なっていた。
ここで降りても仕方ないので尾根をそのまま登リ続けるしかない。上部には岩峰があって、行きたくないのにそこに導かれていく。岩峰基部に到達。見上げる壁はブッ立っていて、左に向かって斜上する浅いバンドが走っている。うーん。ここ以外の選択肢は無さそう。
取付いてみると傾斜が強く結構コワイ。「クライミングじゃんか、これ。」とクライミングシューズを履いた沢ヤは当たり前のことを思った。
それは置いといても、これはあんまり良くない。ビレイヤーから見えない位置だし、ロープ屈曲してるし、行けなくはないけど「落ちる」とか「届かない」とかなると、ちょっと面倒なことになりそう。バンド途中のフレークにカム3本で支点を作り、ハンギングビレイしてフォローに登ってもらう。松尾さん、こちらを確認するや、「おぉっ! スゴイとこで切ったね。」と嬉しそう。「まあね。」と平静を装うオレ。

●3ピッチ目 35m
岩峰基部の「見える位置」からビレイしてもらい、仕切り直し。核心の斜上バンドを抜け、傾斜の強いスラブを登ってブッシュ帯へ突入。これで安心。ヤブの出口付近でピッチを切る。まあまあ緊張したのに松尾さんは「快適、快適(#^ ^#)」と楽しげ。

その先のスラブは台地状の緩傾斜帯に広がっていて、やっと緊張から解放された。ロープを解いてザックを降ろし、久々に水分と行動食を補給。
目の前に広がる空間に圧倒され、「いやぁ、絶景やね。」「デカイね。スゴイね。マブシイね。」と二人して語彙力のない会話に華を咲かす。

これから天国のようなダイレクトスラブへ

見下ろす谷はクランクに曲がり、切れ込んだスリット状の真っ暗なゴルジュを形成している。あんなとこ水線通しには通過出来ないよね。でも下部ゴルジュを目にする事が出来ただけで大満足です。

切れ込み鋭い下部ゴルジュ

見上げると大伽藍の中、湯沢の象徴ともいえる三角スラブがもう目の前だ。異様に映ったあの白い壁が、今は天国の入口のように思える。
ずっと憧れていたというと大袈裟だけど、秋晴れの中、この大きくて静かな湯沢の核心に身を置いている事が素直にウレシイ。
さあ、ここからいよいよお楽しみが始まるぜ。三角スラブを縁取る直接稜からダイレクトスラブへつなげる。少々ヤブが賑やかなのは、ここが沢登りルートだというちょっとした主張。
岩峰に挟まれた門のところでダイレクトスラブに合流。ロープを出した二俣はもうはるか足元。さっきまで緊張のクライミングをしていたのがウソみたいに、快適なスラブがテッペンまで高度差400mも続いている。オレはウレシクなってガシガシ登り、松尾さんは「乳酸溜まるぅ。」と嬉しそうに悶え、二人のテンションはMAXに達する。
簡単快適なスラブをフリーで登りグングン高度を上げていく。振り返るたびに遮るもののない絶景が広がるので、つい何度も足を止めてしまう。(攣りそうで止まったこともあったけどね)

 

快適なスラブをフリーで登る ついつい足が止まる

乾いたスラブはいずれ谷地形を失い、素晴らしかった登攀と共に終焉を迎えた。紅葉には少し早い湯沢の頭で漫才コンビみたいな写真を撮り、静かな栄太郎新道を下りにかかる。右手に大スラブを望むたび、2人ともその余韻から逃れられず立ち止まってカメラを向けるので、日暮れが近いというのになかなか前に進まない。

漫才コンビのようなパーティ

下部ゴルジュの通過、悪い高巻、快適なスラブ、とても1日とは思えない濃密な山行を振り返る。久々の越後はやっぱり凄かったけど、終わってしまうと思うとちょっと寂しい。
そんな時、「来年もこようよ!」 パートナーが笑顔でそう言ってくれた。

遡行図 越後 湯沢ダイレクスラブ

追記
日曜は雨の為に山行中止。大阪まで帰るに帰れないので温泉後、スーパーで買出し。日本酒と湯沢の余韻に浸って6時間の車中宴会。
翌日は遅めの朝食をとった後、鮭の遡上で有名な三面川がある村上市まで足を延ばし、来たる青森山行に向けていろいろ予習をして帰りました。
山は1日だったけど、内容の濃い越後の旅でした。青森に続く。

目次