白山前衛 三方崩山 大ノマ谷第3岩稜

日程: 2023年3月4日~5日
メンバー: L天久、松尾、岡嶋
ルート : 白山前衛 三方崩山大ノマ谷第3岩稜

1日目
6:00 道の駅飛騨白川出発 – 7:00 大ノマ谷出合 – 10:40 第3岩稜取付き ー 雪訓 – 12:00登攀開始 ー 16:30 登攀終了
– 19:00テントIN
2日目
7:00 C1発 – 11:40 P3上にて終了- 12:07下降開始 ー 12:22 取付きに帰着 – 13:30 大ノマ谷出合 – 14:30
道の駅飛騨白川

3年連続で三方崩山の雪稜に行ってきた。
これまで第1、第4岩稜と登ったけど、全くレベルが違った。
難しい! 楽しい! スバラシイ!
2日間で全10ピッチ、土嚢埋めて空中懸垂1回。アドレナリン爆発!!
キノコ雪の生育は小さめだったけど、傾斜の強い稜でほとんどスコップ握りっぱなし。変化も凄くて全然飽きない!
こんなにも楽しいルートが登られてないなんてモッタイナイ。

ここを開拓していただいた山の先輩方、ありがとうゴザイマス。

6時に道の駅を歩き出し、冬季閉鎖の平瀬林道からアプローチ。

去年は出合まで全てラッセルだったのに、今年はほとんどアスファルトが出ていて出合まで1時間も掛からず楽に到達できた。
ここからデブリでにぎやかな大ノマ谷を、足をとられながら約600mの登高。
同日程で入山したスキーの西村、亀岡組は随分下の方に見えていたのに、ルートに近づくころには追い付かれた。

目的の尾根末端には11時前に到着。雪稜では初めて組むメンバーなので、ここで少しスタンディングアックスビレイ、

スノーバーの扱いの確認をしてから12時前に登攀を開始した。

●1ピッチ目 雪壁35m
尾根末端の雪壁から取付き。リッジに乗るところが結構ブッ立ってる。

ここを乗っ越すのがこのピッチの核心で、ちょっとだけ緊張する場面。
背後から「かっこいい!」と黄色い声援が飛ぶ。さて、声の主はどちらでしょう?
お天気上々気温も高め。気分は良いんだけど、雪が腐り気味でステップが崩れてズリ下がる事しばしば。

立木はほとんどなく結構ランナウト。ロープいっぱいに伸ばしたかったけど緩んだ雪のでスタンディングアックスビレイは何かイヤ。

松の木が出ていたとこでピッチを切る。

●2ピッチ目 雪壁45m
引き続き雪壁直上。途中灌木が混じる。木があるんでランナー取り放題。

ここは安心と思ったけど見た目以上の強傾斜。木登りエリアを抜けると今度はナイフリッジ状の雪壁。

ところどころキノコ雪となって波打ち、ライン取りが難しい。

ロープ残り5mのコールを受け、狭いリッジ上で木を掘り出してビレイ点とする。

●3ピッチ目 雪壁
傾斜の強い雪壁が続く。見上げると尾根はその先で緩くなっているように見えるけど、

実際はそんなことは無く、一服できるような場所はない。

緩んだ雪に気休めのスノーバーを打ち込みながら腐った雪壁をどんどん直上。

●4ピッチ目 雪壁
尾根は少し広がり、小規模のキノコ雪がモコモコしだす。胸がつっかえるところはスコップで切り崩し乗っ越していく。
傾斜の立ったところはたいてい重力で雪がズリ落ちてシュルンドが出来ている。

やっかいなのは数日前の降雪で口が塞がっていて、隠れたシュルンドに何度か落ちそうになりながら前進。
キノコ雪の下、雪がずり落ちて出来たテラスで切る。

●5ピッチ目 25mFIX
10m直上。あれっ、小ピークに出た。このままリッジ通しに行くとコルへの下降が結構コワイ。

いったん戻ってキノコ雪が重なる側壁へ進路変更。

とはいえ側壁の崩れそうな雪に乗ってキノコ雪をスコップで削りながらリッジに上がるのも緊張の連続。
2段になったキノコ雪の先は傾斜が寝ていてプラトーに見える。
そろそろいい時間だし、あそこでテント張れたらと期待しながらロープをのばしたが、登り切って唖然。

両側スッパリ切れ落ちたナイフリッジになっているじゃないか!テントの幅よりちょっと細い。しかも両側雪庇っぽい。
時計を見ると16時半になろうとしている。先は岩峰に向かって細い尾根が続いている。

今いるプラトー直下も張れなくはないがスペースギリギリ。しかも剥がれそうなキノコ雪の上だ。

逡巡するがスノーバーを残置してロワーダウンした。これも緊張。

2人のもとに戻ってきたものの、このテラスも幅1m位だし雪壁の上なので切り崩しも出来ずテンバにはならない。

右側は支尾根が派生しているので地面がありそうという意味では少しだけマシ。

ここの雪壁を削る事にする。とは言えここも危険なのでロープで確保しピッケルでセルフビレイをとりながら作業。

地面が出るころ、かろうじてテントの幅のテラスが完成。しかし本当の恐怖はここから。

設営するのにアイゼンを脱がないといけないけど、テントを広げるとスペースギリギリ過ぎて身を置く場所が無くなる。

FIXロープを水平に設置し、そこにセルフビレイして作業。一番星が輝く頃、なんとか斜面にテントを張り付けることに成功。
夜のトイレも象足だと危険なのでチェストハーネス装着してFIXロープを伝って行く事にする。
テントの中で明日の予習。雑誌のコピーを見る。大ノマ谷第3岩稜の紹介分はたったの数行。

「キレット越えの大ジャンプの興奮が忘れられない」とある。これって何!?

●2日目 晴れ
相変わらずイカした恐怖のテンバをFIXに繋がって撤収し、7時に出発。

昨日の5ピッチ目はロープ張りっぱなしだったのでサクっとこなす。

●6ピッチ目 45mナイフリッジ
ほぼ水平移動だが両側スッパリ切れていて高度感はハンパない。

中間支点はスノーバーとデッドマンのみでこんなのにはぶら下りたくない。最後、小ピークを越えその下りが恐ろしい。
45mでコルに到達。良かった。松の枝が顔を出してた。こいつを掘り出してセルフビレイをとり終了。

●7ピッチ目 10m
ナイフリッジを渡り終わり、岩峰を見上げる。そこに向かって雪壁登りが始まると思いきや、すぐに小ピークで行き止まり。

この先はギャップになってて歩いては降りられない。短いがとりあえずここでピッチを切って全員集合。

今、我々はキノコ雪の上にいる。見下ろすがルーフが張り出していて着地点のコルがどこにあるのか同定できない。
これは空中懸垂になりそう。しかし支点となるものは何にも無い。選択肢はひとつ。恐怖の土嚢空中懸垂だ!
土嚢に5mの捨て縄をセットし、ルーフの縁から離して丁寧に埋める。
「順番どうしようかな? 先の短い高齢者順?」「いやいやいや、それはイカンでしょ。」と自分に言い聞かせ、

「ここは自分が先に降りますね」としたくない宣言をする。
ルーフの縁に向かうがこれが超怖い。何度もビレイ器、ハーネスを確認するけど、土嚢が抜けたらおしまいだ。

ジワジワと落ち口に近づくと、イキナリ体が1mくらいズドンと落っこちる。「シビレルワ。」
長めにとった捨て縄が雪を切ったようだ。ホッとするのも束の間で、状況は奈落へ落ちるルンゼの上に宙ぶらりん。

振り子みたいに体を振って勢いをつけコルに無事着地。
見上げると捨て縄がルーフの下まで顔を出している。ってことは、埋めた土嚢は雪庇の上ってこと? 「オー、怖っ!」
残る2人には土嚢を3m後ろに埋め直してもらい、先にザックを荷下げして懸垂。岡嶋は冷静。松尾は大喜び。

●8ピッチ目 雪稜+岩壁基部トラバース40m
さて、難所を過ぎたところで見上げるは岩峰に向かって伸びるスノーリッジ。ルートは今まさに核心の最中。

下から見た感じでは上部の岩壁基部で細く雪のついたバンドトラバース。あれ、行けるんかな? 踏み外すと谷底へ一直線って感じの雪壁の上。
トラバースでスノーバーを使いたいので、前半はランナウトで我慢する。登るほどに傾斜は増し、上部では左足腐った雪壁、右足岩って感じでヒリヒリする。
岩壁に到達し、いよいよトラバース。やはり狭い。しかも岩がハングしていて頭を押さえつける。

スコップでバンドの雪を掘り下げ、体を通す隙間を作りハイハイで通過。ハング下の雪壁に枝を出した木を発見し終了。ここも相当に悪かった。

●9ピッチ目 簡単雪壁35m
岩壁の下から這い出る。傾斜は緩み、雪壁も広々となり核心の終わりを予感させるピッチ。

岩峰の上まで伸ばしたかったけど、最後ヤブがうるさいので一旦ここで切る。天気も良く、第4岩稜の終了点と高さが同じになった。

見上げると10m上は穏やかなピークになっている。
この上で第3岩稜のルートはおしまいじゃない?
いやいや、大体そういう時は登った先で唖然とするもんです。なんて言ってたのだが。

●10ピッチ目 ヤブ雪壁~プラトー10m+15m
スノーバーやらスコップやらじゃらじゃらぶら下げてヤブに突入。

終わりは目前と気分ははやるが、意外にヤブから雪稜に移るところが立っていて簡単ではない。

木に掴まったままスコップを振り、雪壁を削っていく。
ピークに抜けるとそこは平和なプラトーが広がっていた。が、しかし前方を見て唖然。やっぱりね。
そこには巨大な岩峰が。
フォロー二人を肩がらみで引き上げ、3人で黒い壁を見上げる。
時間は11時半。あれ登るには2ピッチじゃ足りないな。今から登るとなると最低15時は過ぎる。

ここまででも十分楽しかったしキリも良い。目の前の沢から歩いてエスケープできそうだし。今回はここまでとした。
敗退感は全くない。むしろ、こんなにも楽しいルートに出会え、充実感でいっぱいだ。

「ここは泥臭い雪稜だ」と松尾が言う。「失礼な」と返すと「誉め言葉ですよ」だって。そして「また来たい」とも。
白馬主稜とか鹿島槍東尾根みたいに名峰に突き上げるエレガント雪稜も捨てがたいが、実はB級グルメ的雪稜が自分の嗜好には合っている。

(知っとるわ! って言われそうですが)
戸隠本院岳ダイレクト尾根がB級グルメの王道とすれば、大ノマ谷は超ローカル。地方の路地裏で知る人ぞ知るクセの強い名店のようなルート。
三方崩山。忘れられた岩壁だけど、ここは静かで自分たちだけの登攀が楽しめる。いつの間にか通う山になってきた。
第4岩稜の時もそうだったけど、2日間で10時間以上かけて登ったのに、沢下降はとても容易で、15分で取付きに戻ってきた。

目次