北ア 前穂高岳北尾根

日  程:2023年3月18-21日
メンバー:L天久、片岡、岡嶋

〇1日目
7:00坂巻温泉 - 9:00上高地 - 12:00徳沢 C1
〇2日目
4:00出発  - 13:20北尾根 8峰 - 16:00 6-7のコル C2
〇3日目
6:00 出発 - 13:30 3-4のコル - 17:00前穂高岳ピーク - 18:00 2,940m付近 C3
〇4日目
5:00出発  - 6:30奥明神沢のコル - 7:00奥明神沢出合 - 9:00上高地 - 11:30坂巻温泉

【報告】

<1日目> 雪
湿雪が舞う朝、未明に坂巻温泉についたというのに濡れ対策の為、新島々のコンビニまでゴミ袋とビニール合羽を調達に走り、歩き出しが7時になってしまった。真っ暗な釜トンを抜け、大正池を横目に黙々と上高地を目指す。

ミゾレ寸前の湿雪の中 上高地を目指す

本来なら穂高のパノラマが広がる河童橋もこの日はガスで真っ白。できれば慶応尾根下部まで進めたかったけど、ワカンには重い雪がまとわりついて体力を吸われ、頻発する落雪にすっかり疲れてしまい、この日は徳沢まで。
半日分でも駒を進めたことは大きいけど、衣類はびしょ濡れ、靴もビショ濡れ、テントを出れば象足も水を吸ってロフトゼロになるなど、3月の北アにおいて翌日からの行動が不安になる。
予報では降雪は夕方まで続く。40㎝くらい積もるんじゃないか? 言葉には出さなかったけど、この時は正直敗退が頭をよぎっていた。

<2日目> 快晴
テントを出ると満天の星空。モチベーションも回復し、初日の遅れを取り戻すべく4時に歩き出す。暗闇の中、新村橋を渡り標識に導かれて登山道を進む。1時間ほど歩き徐々に山の影が空に浮かびだす頃、奥又白谷出合に到着した。

前方に北尾根の横顔を見上げる。屹立した東壁は黒い岩肌を見せなかなかの男前。前日とはうって変わり、真っ青な空で気分も上がる。デブリで覆われた谷をからパノラマ新道に沿ってラッセルで進む。目の前に見える慶応尾根のコルを目指すも一向に近づかない。山がデカすぎて、遠近感が狂ってしまっているようだ。

デブリで埋め尽くされた奥又白谷

先頭を歩く片岡さんが突然「ナダレ!」と叫ぶ。 向かう先の斜面を雪崩がゆっくりと走る。幸い巻き込まれはしなかったけど、降雪直後、南向きの開けた斜面、徐々に上がる気温、警戒していた通り落雪から点発生雪崩が誘発された。
この斜面を登高し続けるのはヤバいので、今できたばかりのデブリをトラバースし藪を抜けて慶応尾根にのった。
アイゼンとピッケルを出して緩やかで長い慶応尾根にラッセルを回し(馬力のある片岡が大半だけど)、息を切らせて2日目の13時過ぎ、やっと北尾根8峰にたどり着いた。全体の行程を考えると出来ればこの日に5-6のコルまで進んでおきたい。

振り返ると慶応尾根に2人パーティが追従してきているのが目に入る。ムムム、ライバル出現。先を急がねば。

■7峰

8峰から望む北尾根

尾根はナイフリッジがうねり、小さなアップダウンを連ねている。片岡が先頭を歩き、岡嶋がそのトレースを追う。ロープを出すほどではないが慎重に、と思っていたその矢先、岡嶋の足元から雪崩が発生。破断面は15㎝ほどでハッキリした弱層。
その後、雪壁とナイフリッジで2回ロープを出してる間に後続Pに追いつかれた。「トレースありがとうございます。どこの会ですか?」と聞かれたので「大阪の蛍雪です。」と答えると、「ホタルとユキって素敵な名前ですね」との事。彼らは東京の会でなかなか謙虚。今朝、沢渡を出発したとの事。

2日目でまだ5-6のコルにも届いていないのには少し焦りを感じるが、時間も16時をまわっているので、本日はここまでとした。2人パーティもここで張る。
奥穂、涸沢岳、北穂、槍も遠望できるロケーション。無風快晴で気持ちが良い。陽のあるうちに濡れたシュラフを干しておいた。この日も気温高くブーツはびしょ濡れ。

片岡はMIZOの北辰(アックスの名前です)を愛用。若くして渋好みやなーとか思っていると、なんともう2人パーティは両方ともMIZOの北辰。いつも物静かな片岡が嬉々としてMIZO談義をはじめたのが印象的だった。

<3日目>
夜、強風が吹き荒れたが、空が明るくなるにつれてそれも収まってきた。この日は明るくなってから行動開始したが2人パーティより先行。
昨日残したナイフリッジをフリーで通過し、小岩峰からの懸垂、簡単な岩登りなどを交え、6峰基部へ。

6峰へと連なるナイフリッジ

■6峰
〇天久リード 45m
岩と草付きを縫うようにロープをのばす。まばらに木が生えているので、プロテクションには困らないけど、ロープの屈曲が多く、上部の雪壁で重くなる。傾斜が緩む直前の木まで。

〇片岡リード 25m
ロープを解くには少し傾斜が強いので、そのまま片岡にロープ引いてもらう。ピークにある大岩に終了点があり、そこで切る。

傾斜が緩んだのでロープをたたんで、ピーク付近の岩をよけながら前進。一か所雪が悪い雪壁でロープを出す。

〇片岡リード 40m
早くも雪が緩み始める。出だしの雪はグズグズでスタンスが崩れていく。一つ目のランナーを木でとったあたりからカリカリの雪壁に変化。傾斜が緩んだ先まで進んで腰絡みビレイ。Wロープではやりにくい。

ここでロープ出している間に2人パーティはフリーで雪壁を越え、我々を追い抜いて行った。

5-6のコルへは雪壁をバックステップで下降。GWだと涸沢起点でここからアプローチする軽装日帰りのスーパーグラビアルート。

■5峰

5峰 GWならここからスタート

傾斜は6峰ほど無いがコイツもデカイ。先を行く2人パーティのおかげで雪壁、雪稜に引かれた階段を追うのみ。高度感はあるがロープは不要で登高を続ける。入山前は他パーティがいない事を願っていたが、トレースがあるとこんなにも楽なものかと恩恵に与かる。逆にいなかったら、長いルートだけにかなりシンドカッタ。

■4峰

4峰は上部が岩峰

これまでとは違い岩の露出が多く、傾斜もきつい。上部には2本のチムニーが走る巨岩があり、登るライン取りによって難易度が大きく変わりそう。下部は浮石が多い岩のリッジで気を抜けない。

〇片岡リード50m
上部の巨岩基部からロープを出す。雪を繋げて巨岩の左から回り込み雪壁をロープいっぱいにのばしたところでちょうど終了点。

雪のピークを越え息を切らしながら小岩峰を越えると3-4のコル。いよいよ北尾根の核心。3峰はこれまでのピークとは見た目から違って傾斜の強い真っ黒い壁。
時計を見るとすでに13時をまわっている。ロープスケールは最低2ピッチ。スムーズにいっても最低15時は過ぎそう。この先テンバが無い事、2峰、本峰が待っている事を考えると余裕はない。

■3峰

3峰 北尾根の核心

コルで2人パーティにことわりを入れ先に取り付く。「1ピッチ目と2ピッチ目どっちをリードしたい?」と片岡に聞くと「どちらでも。こだわりはないです。」という。ここまで先頭を引っ張ってくれたので一番良いピッチをリードしてもらう事にする。

〇片岡リード 30m
高度感あるトラバースから始まるピッチ。片岡の姿はビレイヤーの視界からすぐに消えてしまった。ロープの進みが遅く時折のばしたロープが弛む。ビレイしていて片岡が躊躇している様子が窺える。ビレイヤーからは全く見えない位置で片岡が奮闘している。コルで見ている2人パーティからは「あんな悪そうなとこ行くんか」という声が聞こえてくる。ようやくロープが進みだし、ホッとする。しばらくするとビレイ解除のコール。
次はフォローの番だ。岡嶋を先にして同時登攀。トラバースを過ぎ、凹角から直上。浅いジェードルに入る。右手はスラビー、左手もホールドは無い。足を上げたいが薄被り。フォローとは言え、アイゼン、手袋に泊り装備背負ってのクライミングではなかなかキビシイ。両手のアックスも上手く使えない。四苦八苦しながら核心部を通過し、高度感抜群の浅いバンド状クラックを斜上したら、雪が浅く乗った草付き斜面を直上。岩稜上でビレイしている片岡のもとへ。ここに終了点は無く、ピナクルにシュリンゲを掛けてるだけのビレイ点。屈曲の多いルートでロープが重く、ここで切ったそうだ。

3峰の登攀は高度感あるトラバースから

〇片岡リード 50m
本当は自分の番だったけど、こんなビレイ点ではリード入れ替わり作業もリスクになるので、もう1ピッチ行ってもらう。
岩の割れ目に続く雪壁を登った後、稜の側面をトラバースし岩の積み重なる壁を50mいっぱいにのばす。ここも屈曲の多い複雑なライン。

■2峰
ゴールは真上にすぐそこに見える。核心の3峰を過ぎればあとは小さなアップダウン位だろうと勝手に思い込んでいたが違った。
高度感のある雪壁。カリカリの部分と吹き溜まりの部分が交互に出てきてスリップしないか緊張する。ピークはハングした岩に守られているので岩稜の右にトラバースで活路を見出す。ここも高度感抜群で浮石や引っかけでバランスを崩さないように気を使う。長いトラバースの後、側稜から2峰ピークに上がる事が出来たが、ここも歩いては降りられない。コルまで短い懸垂。北尾根はなかなか許してくれない。

2峰と本峰のコル 北尾根は容易に登頂を許さない

■本峰
ナイフリッジのコルを渡り、雪壁を斜上。最後の岩場をワンポイントのクライミングで頂上へ抜けた。時計は17時。結構ギリギリだったけど、もう、これより上は無い。
前穂のピークは広て緩やかな雪の斜面で、テントは張れそうだけど風が強い。
本当は奥明神沢のコルまで下げて張りたかったけど、明るいうちにそこまでは届かない。稜線を見下ろすと小岩峰手前に小さな白いコルが見え、そこまでなら行けそうだ。少しでも高度を下げておく。

前穂ピーク 明神岳を見下ろす

テンバ設営中 夕暮れに間に合った

 

〇4日目 快晴
登ったはいいが降りなければならない。下降路は奥明神沢。初日の雪から3日経ってるが、極力雪崩リスクを避けたいので、5時前にテントを出る。
まだ暗い中、岩稜をフリーで進む。尾根をコルまで降りるだけとタカをくくっていたが、弱点を突きながらの下降ルーファイは高度感もありなかなか緊張する。1時間半かけて150m下り、コルに到達。
ここから比高500mのルンゼ下降。幸い雪は安定し思いのほか柔らかかったので、ほとんど前を向いてサクサク歩く事が出来た。
岳沢ヒュッテからはワカンに履き替え、陽が高くなる前、雪が締まっている間に岳沢を駆け下りた。

やったぜ! 完登

 

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