錫杖岳 前衛壁3ルンゼ

日  程:2023年3月11-12日

メンバー:L天久、松尾

新穂高を起点に残雪期集中企画。我々はバリエーションルートで参加。ナントカ岳西尾根という冬季ルートがいくつも並ぶ穂高連峰ではあるが、翌日15時に戻ってくるにはあまりにも山がデカすぎる。抜戸岳や穴毛谷も考えたが、よりコンパクトな錫杖とした。計画は全装背負って北沢大滝から中央稜上で一泊。2日目にグラスリンネから本峰を登るという、錫杖ではちょっと異色な雪の計画にした。

  • 3/11

7:00 槍見温泉P出発 9:00 クリヤの岩屋 10:30 北沢大滝 12:00 敗退 13:00 3ルンゼ 出合付近にてツエルト設営

早朝5時過ぎに出動する歩き隊、スキー隊を見送ったあと、時間に余裕のある我々は二度寝して7時に歩き出す。すっかり春になってしまったアプローチ。見上げる前衛壁も真っ黒で1ルンゼの氷瀑も途切れている。約3時間で北沢大滝に到着。滝の落ち口は沢割れし、ナメ滝に水がジャンジャン流れていて、プロテクションも取れないしとてもアイゼンでは登れない。見張り塔の方から巻けないか模索したが、沢登りのような壁に1ピッチのばして危険と判断。この日は早々に行動終了。

時間はまだ昼前。こんな時間から沈したら酒が足りないのは明白。下山して飲みに行くという手もあったが、そこまで堕落してはモッチーに叱られる。「せめて3ルンゼくらい登らないとね。」

翌日出勤しやすいように、取付きにほど近い斜面を切り崩してツエルトを張り、気温も高いので外で穂高の山並みを眺めながらチビチビ開始。

この日3ルンゼに取付いたのは1パーティ。ちょうど降りてきたので様子を聞くと、「氷はベルグラくらいしかありません。スクリューも打てないしCS下はシャワー。カムは有効。」という話だった。

  • 3/12

4:00 起床 6:00 取付き 10:00 終了点 11:00 3ルンゼ取付き 13:30 槍見温泉

3ルンゼは2年前に登ったけど、その時は氷結バッチリで複数パーティが取付き、アイスクライミングというよりも落氷をかわすのが核心だった。今回はトポも氷瀑も無く岩の比率が多いので難易度高めと予想される。スノーバーもスクリューも役に立ちそうにないのでテンバにデポ。残った武器はカム4本、ハーケン類4本。さて、どうなる事やら。

〇1ピッチ目(天久)

右の溝状の雪壁の奥にCSが見える。ちょっと難しそうと思ったので自分がリードしたが、実は簡単なピッチ。CS手前に張り付いたベルグラから容易に抜けれた。ここは譲るべきだった。スイマセン。

〇2ピッチ目(天久)

さっき登ったんでドーゾドーゾと松尾を送り出す。出だしは狭いCS滝3m。そう、氷瀑ではなく水の流れる滝だ。しかも薄被り。「この鬼め」と思われたかも。

こんな不快なピッチは3分で見切りをつけられ選手交替。CSの隙間に刃先を引っかけ、濡れたくないのでリーチ勝負でササっと登る。すぐに次のデッカイCS。こっちはドッカブリのコワモテで、出来ることならお近づきにはなりたくないタイプ。左のカンテに逃げようとイボイノシシ、ハーケンを連打で取付くも相手してもらえず、あきらめてCSに向かう。

CSの下に潜りこんでカムを決め、一息つく。次に左の濡れたフェースを2mトラバース気味に登り、カンテに立ちこまなくてはならない。アイゼンはガリガリ岩を撫でるし、ホールドは全て丸っこい岩。ハイステップで爪先をスタンスに掛け、抜けそうなアックスを信じ上体を引き付けて立ち込む。あー、怖いコワイ。

あとはカンテから雪壁へ移動し、カム2本でビレイ点を作って終了。

〇3ピッチ目(松尾)

前方10m先にCSが口を開けている。トンネル潜りになっているみたいだけど、そこが難しいのかどうか、この位置からでは判らない。2ピッチ目を上がってきた松尾に、そのままロープを引いてもらい様子をうかがう。「うーん、まあ行けるかな。」というのでCSの真下でピッチを切る。水滴がポタポタ降ってくる沢登りのようなビレイ点。合羽着てて良かった。

〇4ピッチ目(天久)

さっきのピッチはあまりに短かったので、続けて行くのかと思いきやギアを渡される。「あれ? 行かないんですか?」「だって難しいか簡単かよく見えないし。」 さっきの「行けるかな」は何だったんでしょう?

トンネルは奥で垂直に立ち上がるエントツのような構造。一見怖そうに見えるけど、出口に向かってベルグラがしっかり張り付いていて、岩と氷を楽しめるミックスなピッチ。穴から這い出て雪壁をまっすぐ進み、次のCSまで。

〇5ピッチ目(松尾)

左壁はベルグラが張ってはいるが、下部は薄くてプロテクションがとれない。そもそもスクリューはテンバに置いてきたんでココには無い。CSの下はデッカイ穴が口を開けていて絶対に落ちたくないところ。

残置ピンを頼りに右の岩壁から取付く。ドライツーリングで直上した後、CSの上を渡って左壁に移り上部のベルグラを登る。「一本くらいスクリュー持ってきたら良かったね」と言いながら松尾は余裕で登って行った。

〇6ピッチ目(天久)

最終ピッチ。またまたデッカイハングの壁。松尾は5ピッチ目、ここもまとめて登ろうとしたが思いとどまった。

「リーダーに最後の美味しいとこ残しといたよ。あははっ。」「ありがとうございます。ははっ。忖度できますな。」そんな譲り合いの攻防を経て、リードが回ってきた。

正面はどうしようもないけど、右岩壁の際に小CSがあり、登るならそこかな。スタンスは豊富だけどCS越えるハングが待っている、アンダーでCSを掴み、足を開いて傾斜を殺しながら体を上げていく。カム決めたいけど良いサイズのクラックが見つからない。変なところに1つだけプロテクションをとって核心部へ。

「抜け口にアックスを決めれば簡単さ。」と思ったが、暖かすぎて雪も草付きも緩み、アックスが決まらない。「マジかよ。」雪を切るアックス。目の前には「ホラホラどーよ」と誘惑してくる残置シュリンゲ。些細な問題は秘密の技でさっさと解決し、あとは終了点のコルまでひたすら雪壁を突っ走った。穏やかな晴天のもとフォローを迎え登攀終了。

気温が高いのは居心地は良いが、雪は緩み落雪、落石、濡れた岩など、条件としては、まあ気を使うコンディション。当初予定のルートではなかったけど、アイスでも岩でもない3ルンゼの登攀はいろんな意味で充実し、ふたりで完登を喜びあった。

終了点から穂高連峰を一望。他のパーティはどうしてるかな? ここで無線を飛ばすと堀内と交信がつながった。同一山域に集う集中山行、特に無線で他Pの様子が判ると一体感が生まれて楽しい。奥丸山は雪が悪く周遊は断念したらしい。滝谷の西村・見上パーティが気になる。この高温で落石などに苦しんでなければいいけど。

この後、懸垂4ピッチで同ルート下降、テンバ撤収後、雪融けが進む登山道を下山。仲間の待つ新穂高温泉へ向かった。

 

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