黒部横断 山スキー

日程:2022年3月12日〜13日

メンバー:L畠山(記)、会員外2名(F、S)

行程:移動距離43km、総行動時間18時間

・2/12(土)日向山ゲート(6:40)〜扇沢(8:10)〜針ノ木雪渓、針ノ木(12:50)〜黒部湖(14:40)〜中ノ谷入り口(16:00)〜Co1800地点幕(17:00)

・2/13(日)C1(5:45)〜ザラ峠(7:15)〜湯川谷付近(9:30)〜カラ杉谷堰堤(12:00)〜立山駅(14:00)

黒部上ノ廊下を遡行したメンバーで、「黒部横断しようか」と計画して2年越しで達成することができた。天気、条件、メンバーに恵まれて満足度の高い山行となった。

針ノ木雪渓をシール登行中

2/12(土)

メンバーは関西と関東の合同パーティーのため、各自公共機関(夜行バスとタクシー)で移動をし、大町温泉郷で6:00頃集合した。天気はピーカンでこれから始まる山行への期待度が高まっていく。

日向山ゲートから扇沢までは、トレランシューズで板をバックパックに装着してひたすら林道を歩いていく。2時間ほど歩いて、扇沢からは板を履いてシール登行となる。

数日間降雪は無かったため雪はしまり、ラッセルは無い。その日の下界の気温は最高12度で風も無いので、オーブンの中にいるような気分。春スキーのように、ベースレイヤーで行動する。

針ノ木雪渓に取り付く。雪は安定していて、デブリもない。しかし今週の昇温でこれからどんどん雪崩ていくだろう。一部スキーアイゼンを装着したが、シール登行で快適に針ノ木峠に到着した。ここからシールを外し、滑走となる。

針ノ木峠から針ノ木谷へ滑走する私、スーパー後傾

雪質は上々だが、久しぶりの泊まり装備を持ったスキーツアーとなるため、激しく後傾になる。重い荷物で絶対に転びたくないので、スピードも出せない。メンバーで一番スキーの上手いFは普段と変わらない滑りでヒューヒュー奇声をあげながら滑走していく。1ピッチ目はスタカットで順に行き、雪の安定度は確認できたので、それ以降はコンテで進む。

針ノ木谷を越えるのがこのルートの核心の1つだが、谷は概ね埋まっていてスキーを脱ぐことなく滑走できた。岩なども落ちてきているため、岩を避け、細い斜面を滑るテクニカルな滑りが必要となった。途中カモシカの親子に遭遇した。遅い動きの彼らしか見たことは無いが、親子一緒となると俊敏な動きを見せてくれた。

針ノ木谷。谷は概ね埋まっていた。

針ノ木峠から黒部湖までは約2時間で到着した。この黒部湖をスキーで歩くのが、ハイライトとなる。夏は舟で渡った黒部湖を、スキーで歩くのは感慨深かった。降雨が降雪となるため、黒部湖は雪で覆われる。その雪が溶けて水が流れ始めている所を渡渉するのだが、まるで本当の川を渡渉するようだった。こういった自然の変化を目の当たりにすることができるのも山ヤの特権である。複数の渡渉を想定して、インナーブーツをアウターブーツから外し、インナーブーツを漬物袋で防水処理しそのままアウターブーツを履く、袋の先端はスキーバンドで結ぶ作戦にした。渡渉は2回あり、作戦成功。

ルートのハイライト黒部湖渡渉、パートナーはネオプレンソックスで渡渉

渡渉が終わり感傷に浸りつつも、ルートの第2核心である中ノ谷ゴルジュへ進み始めた。この谷が埋まっていなかったり、条件が悪いと大きな高巻きが必要になり大分時間を食うことになる。

中ノ谷ゴルジュはしっかり埋まっていてくれた。滝も埋まっていた。沢を愛してやまない私にとっては、ゴルジュに入る喜びと、夏の遡行を想像して、ワクワクが止まらず疲れも飛んでいった。そして滝の上で、北陸側から私達と反対のルートで黒部横断をする2人組みにあった。確かに北陸に住んでいたらそれが自然な流れだろう。谷の中となるが、デブリの跡も少なく、雪も安定しているためCo1800でその日の行動を終えた。

Co1800で幕。カミナドーム4型を使用。

2/13(日)

4:00に起床し、6:00よりザラ峠を目指して行動を開始する。雪も安定していて、シール登行のみで1時間ほどでザラ峠に到着する。400年前に厳冬期に佐々成政がザラ峠を越えたとされる「さらさら越え」。真偽は定かでは無いが、当時どんな装備で、どんな技術や知識を持って山越えを達成したのかを想像するのも面白い。カモシカでも獲って食べたのだろうか。

ザラ峠、風が少し強かった。

ザラ峠直下数10mは岩が露出しているためアイゼンを履いて下降。雪質はモナカ、視界はフラットライトで雪の凹凸が見え無い状態。汚いシュプールを残しながら滑降していく。

湯川谷以降からは、堰堤、橋が続くためルートファインディングが肝心となる。スピード感を持って、慎重に右岸、左岸を行ったりきたりする必要がある。トラバースや樹林帯の滑走も山スキーに慣れていないと困難であろう。私もトラバース中に一度板が刺さり横に1回転して転倒した。もし落ちた先が崖であったり、堰堤真上であったらアウトであった。

いくつもの堰堤を越えていく、転倒すると危ない箇所も多数

常願寺川に入ってからは、デブリ祭りとなった。私達が滑走中も遠くから雪崩の音が何度も聞こえる。先日すれ違ったパーティーのトレース上にもデブリがこんもり積もっていて、まさにロシアンルーレット。こんな雪崩に巻き込まれたら即死であろう。地形図を見ると大きな沢はほとんど雪崩ていた。もう大きな雪崩の危険性は少ないだろう。スキーを履いたままデブリを通過するのは難しいため、板を抜いで担いで歩いて渡るが、この動作の繰り返しが体力を消耗する動きとなった。念のためそれぞれ距離を置いて歩いた。

デブリは続くよどこまでも

Co600辺りでやっかいな堰堤越えがあった。ハシゴで降りることができず、私達は左岸の壁をアイゼン、ピッケルでトラバースすることにした。雪も脆かったので、沢登りなどで悪い所慣れしていないとスリリングな箇所であった。スイッチが入り、意気揚々と先頭をきる私を男性2名は後ろでそっと見守っていた。実はここを通過するのに安全でスマートな行き方があることが後日判明したのだが、それは地形図を見ればすぐに分かることであった。

アックスとウィペットのダブルアックスでトラバース

この鬼門を通過した後も、デブリは続くよどこまでも。もうお腹がいっぱいになりながら、単調な滑走を続けると、ようやく見えてきた立山駅。メンバー全員「見えた!」と歓喜の声をあげる。残りの力を振り絞って、立山駅まで歩みを止めず進み続ける。立山駅に到着し、握手をして、即自販機のコーラで祝杯をあげ私達の旅は終了した。

好条件下、黒部横断を達成することができた。今回の山行では、地形や自然の変化、歴史を深く感じ、黒部の山域を味わうことができてよかった。

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