60周年剱岳山行
太田 礼佳
日程: 2023年8月9−13日
雪メンバー。L小田、松尾、太田
台風6号と7号に挟まれ、天候に警戒しながらも夏の剱岳へいざ出発。
8/9 22時 小田家に太田到着。小田さんの車にて出発。
23時 梅田駅にて松尾さん合流。
高速道路にて立山駅まで移動、夜間に到着し車中泊。
8/10 始発から既に立山ケーブルカーには行列ができている。
7:50のケーブルカーに乗り、500m上昇。
美女平に到着。バスに乗り換え、室堂に到着。
天気は晴天。雷鳥沢野営所場には既に多くのテントが設営されている。雷鳥沢を抜け、約500mの高度を上げ剣御前小舎に到着。ここで別パーティーの小林さんたちと合流する。知っている人と会えるとすごく安心する。嬉しい。嬉しいけど、西村さんの「太田さん、今井くんのぎっくり腰を治してやって」え、何?なんでぎっくり腰?ぎっくり腰は救急車を呼んでもいい案件。
安静と鎮痛薬しかできることはない。
どうやら美女平から荷物を背負う際に腰をやってしまったそうだ。とても辛そう。よくここまで登って来たなぁと感心。
みんなで写真撮影。
今井くんが80Lのザックを背負っている。え、みんなの分の食糧を背負っているかと思いきや個食だと。何が入っているのかすごく気になる。台風の進路より気になる。
気がつけば12時頃には剣沢キャンプ場に到着。
テントを設営するが、むっちゃ暑い。ここ標高2521mやで、なんでこんなに暑いの?
テントの中に入るが暑い。ビバークの結露対策に持ってきていた、オクトスのタープがまさかここで役に立つとは思わなかった。
そして今井くんの80Lザックの中から60LのBLUE ICEのアルパインザックがマトリューシュカのごとく出てくるとは誰も予想していなかった。西村さんが出発前に荷物チェックしとけばよかったと悔やんでいる。松並さんがストレッチ方法を伝授している。
私は松尾さんにバイオじゃない方のトイレを見てもらいたくて何度も誘ってみる。
ここのトイレは日本で一番怖いトイレだと思っている。この気持ちを共有したい。
涼しくなり、剣沢小屋に偵察を兼ねて飲み物(酒)の調達へ向かう。
小屋の影で飲んでいると、見知った顔を見つける。
地元のクライミングジムの常連さんだ。しかも整体師だ。ゴッドハンドだ。
突撃する。「ぎっくり腰を治してください」知るか。と一掃される。無念。そりゃそうだ。
16時に夕食を摂取。松尾さんのきゅうりの料理が美味しい。直前まで結構が懸念されていたため、共同食ではなく個食なのだ。地獄の4日間の個食が始まる。
17時という明るい中で就寝。初日を終える。
8/11 2日目、晴れのち曇り
1:43 暗闇の中、ヘッデンで剣沢キャンプ場を出発する。
1:47 剣澤小屋の分岐 昨日下見をしたところ。降っていき、雪渓へ移る際にアイゼンを装着。慣れない硬い雪渓に一回滑る。源次郎の取り付きを探す。
2:35 平蔵谷出合 しばらく行くと源次郎の取り付きに到着。アイゼンを片づけ、ハーネスを装着。夜はまだ暗く、細い月明かりは星の光を見やすくしてくれるが、辺りを照らしてはくれない。
標高2460mまで上がる。そろそろ成城大ルートへ尾根を越えてトラバースしなければならない。しかし地形図上は崖であり、茂ったハイマツがさらに道を不明瞭にする。
日の出を待ち、取り付きを探すこととする。尾根に乗り見晴らしの良い場所で朝日を浴びながら軽食をとる。
ここで温かいコーヒーを飲めれば最高だろう。あとサンドイッチを食べたい。
なかなか取り付きまでの尾根越えができない。踏み跡があるけれど、進むととてもじゃいが降りれないのである。松尾さんは以前の取り付き探しに6時間をかけたそうだ。
1時間ほどだろうかなんとか行ける場所がないか、尾根からひょっこりと探していると一人の女性が上がってくる。「あ、太田さーん」小林さんだ!女神に見えた。
少しすると前の方から西村さんも現れる。「道がわからんのですー」「もっと下だよ」西村さんのアドバイスのおかげで1回の懸垂を交えて無事に尾根を越える。
その後は松尾さんのおかげで成城大の取り付きすぐに取り付きにつくことが出来た。
ちなみに前パーティーはこの取り付きへの尾根を越えることに失敗し、一人が背中から落ちたらしい。無事に着けてよかった。
成城大ルート
1P-2Pを松尾さんのアドバイスを受けながら、小田さんが繋げてくれる。
3P リード松尾さん。
4P リード太田。 どうやら核心のよう。上がって、トラバースしまた上がる。40m。
ハーケンがどいつもグラグラしている。花崗岩が風化しておりカムをかけるが岩がぶっ飛びそう。アルパインヌンチャク、カムを出し切って抜ける。
終了点はペツルのハーケンが2本打たれているはずなのに1本しかなく、それも半分抜けてきている。他のハーケン合わせて4本で歪な支点を構築する。180のスリングを結ぶ余裕もない。
5Pリード 小田さん なかなかランナウトの長い薄かぶりの壁、二番手に登っていたが、ゾッとする。30cm四方のガバ岩が揺れている。ロープや小石が落ちるだろう。
松尾さんに直撃したらひとたまりもない。松尾さんが登って来るまで岩を支え続ける。
無事に二人抜ける。ハイマツ漕ぎ100mを覚悟していたがとても良い場所に出てくれたので20mほどですむ。
6Pリード 太田。どこへ行けばいいのか、全くわからない。左はハイマツ、右は岩。高さ的に抜けれなさそうではないが、支点が取れない。まあ、落ちたら死ぬか怪我するだろう。ボルダー4級くらいかな、ハイマツまじりの岩場を選択。曲がりくねってロープがすごく重い。20mくらいなのに驚くほどにロープが重い。先に進めそうにないので途中で支点を構築しようとするが、木もなければクラックもない。なんとか3番のカムがよく効いてくれる。1番と、0.3、細っこい木でなんとか支点を構築する。
時間がかかってしまい。日当たりの良いところで待ってくれていた二人を消耗させてしまった。
7P松尾さんリード。「でっかいなめくじがいる!」黒い巨大なめくじ。なめくじは食べてはいけない。松尾さんとてもランナウトに強い。木へのスリングの結び方も神がかっている。親指ほどの太さの二股の木の両方の枝にガウダーヒッチがされている。すごい強固だ。解けない。全然解けない。
成城大ルートを抜ける。達成感と暑さでバテバテだ。休憩で一服。
10:08 源次郎尾根Ⅰ峰につく。
12:43 源次郎尾根Ⅱ峰、せっかく登ったのに懸垂しなきゃ行けないなんて、なんて鬼畜。
13:36 剱岳山頂へ到着。周囲はアルパインクライマーの人が多い。どこのぼってきたのと聞かれる。それよりもチューブバターを直接飲んでいたお兄さんのインパクトが強すぎて、ピークハントの感慨はない。携帯がつながる。四方から雨雲が湧いていたので嫌な予感がする。雨雲レーダーでは岐阜が頑張って雨雲を停めてくれていたはず。
電車会社に勤めている方が職場から東海道線の計画運休について連絡が入る。
やめてくれ、明日はチンネなんだ。周囲から頑張ってと励ましを受ける。
みんな揃って記念撮影。ここからが大変だった。北方稜線。ガレがやばい。もう一度いう。ガレがやばい。雲の中に入り視界が悪くなる。でも逆に暑くなくなったのでよかったのかも。ガレがやばい。
14:35 長次郎コル
15:05 長次郎ノ頭 ここで紀州山岳会の1パーティがビバークしてチンネに行ったそう。
広いし、足場は砂地。水があればそれもいいかもしれません。
15:40 池ノ谷乗り越し、ガスって何も見えません。あとずっとガレてます。
16:12 チンネ到着
16:20池ノ谷ガリー到着
16:39三ノ窓 ガスの中、松並さんの「松尾さーん!」の両手を振る姿が天使に見えました。西村さんと小林さんは4時間前にチンネの左稜線を登りに行ったそう。源次郎行って、北方稜線超えて、チンネ行くとか凄すぎる。松並さんは二人のアイゼン、ピッケル、靴を受け取って、牛の乳搾り程度の水しか取れない雪渓からの水汲みをし、携帯もつながるのずっとラジオを聞いて待っていたそう。
聞くともう1パーティーが先に登攀しているそう。どうやら早月見尾根を超えてきたそう。「水4L持ってました」それは人間ですか?意味がわかりません。
私はツェルトを設営し、松尾さんと小田さんは水汲みに。そして取り付きへの確認をされたとのこと。
「雪渓がつながっていない。降りるのには前爪のアイゼンとピッケルがないと無理です」
あ。ああ~。どっちも小田さんの車の中である。この時チンネの敗退が決定しました。
でも三の窓の夕焼けと雄大な景色にここまできた甲斐があったと思うのです。
一人劔沢キャンプ場でまつ今井くんのことを思うと尚のこと。
松並さんも交えて4人でお茶を飲む。明日は池の平を通りキャンプ場に戻るそうです。
晩御飯を食べて、就寝。
3日目 晴天
4:39 三ノ窓を出発。朝日が美しい。
4:47 池ノ谷ガリー 昨日はガスっていて気が付かなかったのですが、景色がとても綺麗。
5:42 長次郎の頭で一服。
6:44 剱岳 山頂今日は一般登山者でごった返している。
7:09 カニの縦ばい なぜか鎖を掴んだら負けな気がするのはでしょう。
小田さんが「今日はもう下山しようか」と話していたのです。温泉に入って美味しい物を食べようと。何を食べようかって話していたのです。この時までは。
ひゅっと横を見ると、源次郎の手前の尾根を登っているクライマーがいる。楽しそうなリッジだ。
ソワソワとし始める3人。
「え、え、どうする?計画書には書いてないけど」「メールで変更届だそうよ」三度の飯よりクライミングがいい。チンネに登れずに消化不良の状態。
そして下山する列を離れガレ場へと突っ込んでいく。
8:00頃 南陵の登攀開始。全体的にⅢ級らしい。
1Pフェースなので太田、リードさせて頂く。
どうやら前の前のパーティーがガイドさんに連れられた初心者のため小刻みに(1Pを三つに分けて)支点をとっているため、前のパーティーも変なところで支点をとっている。
亀の速度で進む。
2P小田さんリード リッジが気持ちいい。遠くでカニの横ばいをいく緑のTシャツの4人組が見える。4人目がだいぶ遅れている。大丈夫かなあと二人で話ながら見ていると、ガイドにロープで確保されて進んでいく女性もいる。いろんな人がいるなあ。
3P松尾さんリード 不思議な形状のリッジを進む。
4P太田リード ロープがキレそうなほど岩が尖っている。擦らないようにヌンチャクやらをかけていく。途中面白そうなフェースがある。ぜひ登ってほしい。二人とも登ってくれなかったけど、寂しい。短いコースで待ち時間が謎に長かったけど楽しかった。
軽食をとって下山ルートを向かう。
13:13 平蔵の頭 平蔵って誰ですか?ググったけどわからなかった。劔岳の地名は、いくつかを除いて柴崎芳太郎以後100年の間に付けられきたそう。近くに白ハゲ、赤ハゲと付けられている地名もあったから、ハゲよりも大分ましなのでしょう。
14:00 剱澤小屋 お酒をかって祝杯をあげる。お疲れ様ー!
14:16 剱沢キャンプ場 もう帰っているのではと思っていましたが、西村さんたちパーティーと合流。今井くんの腰も少し良くなっているそう。まだ痛そうだし、精神と時の部屋に監禁されてたみたいに遠い目で「トイレの前が携帯の電波一番いいですよ」と教えてくれた。哀愁がすごい。
それでもスプリングスをみんなに分けてくれる今井くん、いいこや。石積みが異常にうまくなっており、彼がどんな気持ちでみんなの帰りを待っていたのか・・・・。
とりあえず酒を飲む。
夕飯を食べ、就寝。
4日目 晴天
4:00剱沢キャンプ場を出発。剱岳を登っていくポツポツとしたヘッドライトの明かりが少し神秘的。
4:50 別山頂上。途中でめっちゃ雷鳥の鳴き声がした。あとヤマレコがずっとルート外れてるって5分おきに警告してきた。雷鳥は探したけど、ヤマレコは無視してたら、別山山頂にたどり着いた。劔御前小屋からは見れない絶景が広がる。軽食を食べて一服。縦走もしてみたいなと思った。
5:02 剣御前小舎 外国のお兄さんが盛大にこけていた。
6:06 雷鳥沢 ヒュッテ 中は綺麗だそう。
6:31室堂バスターミナル きっと1番だと思ったら、前に一人ザックを置いている。屋上でラジオ体操をしていたご夫婦だった。少しすると緑のTシャツをきた彼らが列で荷物を整理していた松尾に近づいていくのを少し離れたところでみる。緑の彼らが松尾さんに声をかけている。びっくりしている松尾さん。私も思わずうわーって思った。松尾さんと目が合う。あとでびっくりしたっと言っていた。特に登山の話などはなかったそう。
次々と人がやってくる。早めにきてよかった。臨時便も出てなお良かった。
7:40 バス出発
立山ケーブル乗り場、駐車場到着。
しばらく車で走り、温泉に浸かり人間に戻った気になる。
小田さんおすすめの美味しいお寿司を食べて地獄の個食生活が終わったと噛み締める。目の前で握ってくれていた大将は知らないでしょうが、4日間地獄の食生活を過ごした後のご飯の美味しいことおいしいこと。
高速も思ったほど混雑しておらず、無事大阪に戻る。
小田さん、松尾さんお疲れ様でした。4日間とても楽しい一生の思い出になります。