新型コロナウイルスパンデミックにもある程度収束の兆しが見え始めた2022年秋。2年越しの念願であったアメリカへのクライミング遠征にようやく旅立つことができた。期間は10月初めからの約1か月あまりで、ヨセミテ国立公園、インディアンクリークの二箇所に滞在し、夢にまで憧れた本場のトラッドクライミングを楽しんだ日々は忘れることができない思い出となった。
ヨセミテ国立公園(10/1-10/18) 畠山(記)
10月1日、関空ー台北ーサンフランシスコというルートでアメリカへ入国し、遠征前半はヨセミテ国立公園を目指す。ヨセミテ国立公園は、年間430万人以上の人が訪れる一大観光地で、サンフランシスコからは車で約3時間半程。
エル·キャピタンやハーフドームのビッグウォールクライミングを代表として、幾多のルートが公園内には点在している。ヨセミテはまさにクライマーの聖地である。世界中のクライマーが集まり、彼らとキャンプ場や壁で交流するのも楽しみの一つだ。
岩質は花崗岩だが、氷河に削られたその岩は日本の瑞牆や小川山と比較すると滑らかな岩質である。御在所の岩質が近いとも言われている。日本ではあまり見られないピトンスカー(ハーケンを抜いてできた穴、プロテクションに使える)や、基本的に長いピッチ、きついランナウトもヨセミテクライミングの特徴といえる。
【El Cap baseエリア】
ヨセミテを代表するBig Wall、El captainのベースにあるショートルートの岩場。他エリアと比較してもグレードは辛いように感じた。またBig wallをトライする人が頭上にいるため、色んなものが落ちてくるかもしれないので注意が必要。
・la Cosita Left 5.7
(望月)OS けっこう被った凹角。丁寧にフットスタンスを拾えば安定して登れる。上部の薄かぶりもワイド登りで楽しい。下降はラッペルがベター。しかしこれで5.7は辛いと思った。(体感5.9)
・la Cosita Right 5.9
(畠山)OS フィンガークラックの課題。トポにはレイバックでとあるが、滑りやすいため、ジャミングでいける場合はジャミングで登った方がいい。
(望月)× 下部フィンガーサイズのコーナーに苦しむ。傾斜はないがフリクションに乏しい壁。磨かれた壁に足を押し当ててのレイバックが恐ろしい。(体感5.10a以上は確実)ヨセミテ初日にいきなり5.9を登れず少々凹んでしまった。
・Sacheler Cracker 5.10a
(畠山)計4回のトライでRP 杉野保氏曰く、ヨセミテ最強の5.10a。ワイド、フィンガー、ハンド、ワイドと変化に富んだルート。このエリアではトライしておきたいルートの一つ。
・Mobby Dick Center 5.10a
(望月)OS 超人気ルートで、行く度にいつも誰かが登っている。出だし3mは真っ直ぐ登る場合は難しいフィンガークラックだが出来る気がせず、左壁からボルダー的なトラバースで越える。こちらは落ちたら即グラウンドフォールなのでめちゃくちゃ緊張したが、そこさえ越えればあとは快適。ハイライトのフィストクラックは、名張で言えばマシュマロマン又はジュマンジと同じくらいのサイズだが、多少傾斜が寝てるのであまり落ちる気はせず、ひたすらカムをずらしながら快適に進む。たまにクラックの外にもナッツやマイクロカムでプロテクションが取れるポイントもあり、見逃さず活用が良い。長いけど玉切れさえしなければ楽しく登れるルートと思う。
・Pine Line 5.7
(畠山)OS Noseの取り付きのピッチ。ウォームアップやクールダウンに良い課題。ナッツがよく効く。
【Manure Pile Buttressエリア】
・Nut Cracker (5p、5.9)
10/3、ヨセミテ2日目は超人気ルートのNUT CRACKER(5p、5.8)へ。6パーティも来ていてだいぶ順番待ちもあったが、だいたい5h程度でトップアウトした。全体に傾斜はないのでスラブに走るクラックを登る感じだが、ところどころクラックが細く、また各々のピッチがかなり長いのでどうしてもランナウトするので結構緊張感もあり、面白かった。そしてEl Capitan, Half Domeといった周りの絶景を眺めながらのクライミングはとても楽しかった。(望月記)
1p目5.9 畠山L 最右のバリエーションラインのスラブクラック。見た目以上に悪かった。
2p目 5.7 望月L 快適な凹角。次のピッチが大渋滞で、終了点で1h近く順番待ちした。
3p目 5.7 畠山L 全体に快適だが、ところどころフェイス的なムーブもあって面白い。
4p目 5.8 望月L カムを決めながら登るスラブ 5.8 快適だがとにかく長く、途中からビレイヤーから全く見えないところでクライミングすることになるので、終了点からのコールが大変だった。
5p目 5.8 畠山L 出だしで左の凹角から悪いマントル返し。その後はダイクの発達したスラブ。このピッチで終了。トップアウト後は裏から歩いて下山。約30分ほど。
【Cookie Cliffエリア】
Camp 4から10キロほど離れた渓谷の下流側に位置する岩場。駐車場からアプローチ至近で助かる。壁が南向きなので昼は灼熱だった。今回は触れなかったが魅力的な5.11以上の課題も多い。
・Outer Limits 5.10c
(望月)OS トライした日は、まだヨセミテへ来て5.9も登れてなかったので10cなんて大丈夫かと不安だったが、思いの外登りやすくて気持ちよくオンサイト出来た。やらなかったが2ピッチ目は5.11aとのこと。
(畠山)FL フェイスを拾うムーブが必要になる箇所が多く。フェイスをやらない私は少し苦労した。プロテクションも取りやすく、三ツ星の楽しいルートであった。
・Catchy 5.10d
(望月)× 途中までは快適に登れるだが、最後の最後、クラックが閉じるところで悪いムーブあり、落ちてしまった。フォールした時にロープの伸びと、ビレイヤーが振られて墜落距離がかなり延びたため、その後はびびってしまい結局エイドでトップアウト。次回の宿題となってしまった。
(畠山)× 最後の核心でガバホールドが遠くテンションをかけてしまった。上のcathy corner 5.11aとあわせて、またトライしたい。
【Church Bowlエリア】
・Bishop Terrace 5.8(2ピッチ)
(望月)OS 本来は2ピッチあるルートだが、繋げて約60m。中間にラペルポイントがあるので、各々リンクして1ピッチとして登ることにした。クライミング自体はなんとなくアルパイン味もあり難しくはない。雰囲気は御在所中尾根を少し難しくした程度だが、終盤は傾斜がだんだん強くなってくる。但し、カムのセット間隔と使うべき場所のマネジメント、ロープドラッグ防止のためのスリング延長等、長いルートに必要な基本的なスキルがきっちり出来ないと多分ハマるだろうし、そういう意味でも良いルートだと思った。また、下降は2ピッチの懸垂下降となるため一度全てのカムからロープを抜く必要があるので、カムの回収忘れも要注意だ。
(畠山)FL
【Five and Dime Pinnacleエリア】
壁が南向きのため昼間は灼熱となる。トラッド以外にもスポーツルートもいくつかある。
・Cooper Penny 5.10a
(望月)×途中敗退 上部の威圧感あるワイドクラックが印象的なルート。プロテクションがかなり取りづらいフェイスを登りトラバースしスタート。(隣のFive and Dimeもスタートは共通)スラブに走る細いクラックを登り、核心のハング気味のワイドに入る。暑さと喉の痛みもあって、核心が終わる少し手前で力尽きてずるずると落ちてしまった。結局、隣のルート経由で終了点へ回り込んで懸垂下降でカムを回収した。
・Keystone Corner 5.8
(畠山)OS アップに最適なコーナーのルート。日中も日は当たりにくい。
・Five and Dime 5.10d
(畠山)2回目のトライでRP
(望月)FL 出だしの数m、ホールドはガバだがほぼカムセットが出来ないフェイスを登り緊張する。しかし核心は右上した後、チムニーから若干ハングした#0.5~#0.75サイズでかなり厳しい。苦しいレイバックとクラック外へのステミングでなんとか保持し、カムをセットするまでが厳しい。そこまで行けば#1サイズとなり少しハンドジャムも効き始めるので、傾斜に耐えてひたすら頑張る。最後は#3のワイドハンドで小ハング越えが待っているが、根性で足を上げてフットジャムで一気に越えた。5.10d、しかも苦手なシンハンドサイズのクラックなのであまり一撃できると思ってなかったのでかなり嬉しかった。
【Arch Rockエリア】
ヨセミテ国立公園のゲートすぐ上に位置する岩場。南面に位置するため、早朝か夕方がいい。New dimensions 5.11aは日中でも日が当たりにくいとのこと。
・Midterm 5.10b
(畠山)OS 0.2サイズのフィンガーから始まり、最後はワイドで終わる素晴らしいルート。グレード関係なく三つ星のルート。
・Entrance Exam 5.9+ 3p トップアウト
この壁でもっとも目立つ巨大なチムニー。中は日差しは当たらないので涼しそうだが、見てくれといい長さといい一見して恐ろしすぎ、全く触手が動かなかったが、畠山オールリードで登るとことになった。終わった頃には他のルートも日陰になった頃だろうと思っていたのだが、思いの外厳しくて結局ここで一日掛かってしまった。(望月記)
1p目 5.9 畠山L ワイドだが奥まで体を入れればプロテクションは割と取れる。しかし最後のチョックストン越えはたいへんパワフル。畠山オンサイト。トポには書かれてなかった残置支点あり。
2p目 5.9 畠山L 40mと非常に長いチムニー。ロープの流れが悪いので中間のチョックストンで一度ピッチを切る。後半は、最後のチョックストン越えが非常に悪くテンション掛かったがトップアウト。ビレイ点の残置スリングはボロボロで使い物にならず、トップアウトすることにした。
3p目 5.7 望月L 易しいがかなりボロい岩でアルパインのよう。最後はバンド状まで上がりフィクスロープが設置された木でビレイ。終了後はバンドを壁を見て左側へ回り込み、そのまま歩いて下山した。
【Pat and Jack Pinnacleエリア】
キャンプ4から渓谷を下り、Cockie Cliff の手前に位置するエリア。朝と夕方を狙って何度か登りに来た。近くのピクニックエリアは涼しくてレストに最適だった。
・Knob Job 5.10b
(望月) FL 途中までは快適なハンドクラックを2本も使え、さらに壁にはドアノブのような大きなガバホールドがボコボコと出っ張っているので難しくない。核心のフィンガークラックが結構いやらしいが、リーチがあれば一気にその上のホールドを掴めるだろう。最後は易しいフェイスクライミングで終了点まで登る。このルートはヨセミテ滞在の最終日にトライしたのだが、その数日前から左足首が痛んでまともに登れなかったので、最後にようやく自分なりに納得がいくクライミングができて良かった。
・the Tube 5.11a
(畠山)× 途中のブランクセクションがナッツ、スモールカムしかセットすることができず怖気付いてエイドで抜ける形になった。外足を拾う必要があったため、力をつけてまたリベンジしたい。
(望月) トップロープ 出だしのコーナークラックはスカスカのハンドジャムで結構悪かった。後半はスラブの足を拾い、右の凹角に身体をこすりつけて登るが、プロテクションが決めづらく、リードするのは相当怖いと思う。
【Generator Stationエリア】
・Generator Crack 5.10c
(望月、畠山ともトップロープ)一応2人ともノーテンで登れたので満足だが、リードはキャメ#7以上がないと非常に厳しいと思われる。道路脇でアプローチゼロ。トップロープのセットも容易と素晴らしい。
【Reed’s Pinnacleエリア】
・Lunatic Fringe 5.10c
(畠山)OS フィンガー、レイバック、フェースムーブなどバリエーションに富んだルート。ルートは40メートル以上あり、80メートルロープでは足りなく、最後はクライムダウンした。
・Stone Groove 5.10b
(畠山)OS シンハンド、一部テクニカルムーブが必要になる、短いが楽しいルート。
(望月)× 足首を負傷していた時に無理してトライしたが、やはり登れず残念。
【Middle Cathedral Rockエリア】
・Central Pillar of Frenzy 5p、5.9
ヨセミテを代表するショートマルチルートの一つ。前情報の通り超人気ルートで、壁に着いたらすでに2パーティ待ちで、自分達の後ろにも確認しただけで4パーティも来ていた。奇数ピッチ望月、偶数ピッチ畠山で登る。事前にこのルートの5.9は5.10aはあるつもりで登るべしと聞いており、かなり緊張して取り付く。登ってみるとワイド、フィンガー、ハング超え、チムニー、レイバックなど色々なムーブが出てきてとても面白い。ただし全体としては傾斜は多少寝ているので、ランナウトする場面でもそれほど恐ろしさは感じなかった。内容も良いので、大人気ルートだと言うのもわかる。機嫌よく5ピッチを登り終えた後、懸垂下降3回目でトラブル発生。次のビレイ点の場所を間違えてロープが届かず壁の中で宙吊り状態となり、10mほどプルージックで登り返す羽目に…正解は右の大きなカンテを越えた先にあったと分かり、なんとか振り子トラバースで辿り着けたが、この失敗で下山がかなり遅れてしまった。その後も回収しようとしたロープの末端に結び目が残っていたり(上にいたクライマーに解いてもらえた)散々だった。さらに下降後、やはりクライミングは負荷が高いのか、また左足首が痛み出し、結局ヨセミテ滞在中は痛みを誤魔化しながらのクライミングになってしまった。(望月記)
【現地での生活その他】
·気候
秋は山火事のシーズンになる。日本とは比べ物にならないくらい乾燥しているので、対策しておかないと喉を痛めてしまう恐れあり。また、岩場の位置する渓谷内は標高が1000m近くあるため昼と夜の寒暖差は激しく、10月は例年平均最高気温27度から平均最低気温5度程度となる。気温が下がり始める10月でも日の当たるエリアはクライミングが厳しく、現地で購入したトポを頼りに日陰のエリアを探して登った。
·レンタカー、現地での移動
現地で行動を共にしていたOGTさん、SZKさんと4人で共有して借りた(10/1-10/17の期間で一人あたり4万6千円程)。ヨセミテ国立公園内では、シャトルバスを使って岩場へのアクセスが可能だが、Arch Rockなど遠方の岩場はシャトルバスの運行が無いため、車が無いとアクセスが難しい。なお、ヨセミテ国立公園までは公共交通機関で移動することも可能。(復路はサンフランシスコまでバスと鉄道を利用)
·キャンプ生活
全日程camp4(一人一泊10ドル)で滞在した。観光のハイシーズンは受付に並んで早いもの勝ちとなるが、私たちが訪れた際はオンラインでの予約となった。食事は遠征初日にレストランでピザを食べたこと以外は全て自炊をした。買い物は公園内のスーパーでできるが、値段は高いため、ガスや米などは公園外で事前に揃えることをすすめる。(特にOD用ガスのカートリッジは国立公園内のアウトドアショップでは既に売り切れていたため割高な小サイズしか購入できず、中サイズは外の町まで行かねば手に入れられなかった。)冷蔵庫などは無いため日持ちする食材を選んで、毎日ツナ缶生活を送っていた。時折安い豚肉がスーパーに入荷して、その時だけは豪勢な食事になった。
その他の施設として、水は数カ所汲む場所があり。クマ対策で各キャンプサイトには、フードコンテナが常設されている。匂いのするものは基本的にコンテナに入れる必要があり、車内に置いてあるのをレンジャーに見つかると罰金となる。実際に知人もクマが食料を狙って車を荒らしているのも目撃したことがあるとのこと。
シャワーは宿泊者は無料で浴びることができるが、あまり綺麗ではなく、ヘッドの向きも欧米規格のため壁に当たった温水を浴びることとなった。
【ヨセミテの感想】
(望月) 今回ヨセミテには2週間ほど滞在したが、前半は乾燥にやられて喉の痛みと咳、鼻水が止まらず体調を崩す。後半は途中で痛めた左足首が調子悪く、腫れが出てまともにクライミングが出来なかった日も多かった。キャンプ生活は楽しかったが、やはり悔いは残る。ぜひ再訪して今回登るつもりだったが登れなかったルート(Sacherer Cracker 5.10a、Lunatic Fringe 5.10c、Midterm 5.10bなど)や、今回よりもっと長いマルチピッチ等も色々経験してみたい。
(畠山) ヨセミテでのクライミングでは、あまり経験したことのないツルツルの花崗岩、スラブ登り、レイバック、ピトンスカーなどへのプロテクションセットなどを現場でこなしていくことが核心だった。最初は不慣れだったが、徐々に順応できて、自分の成長も感じることができてよかった。数本マルチを登ったが、グレードに関係なく壮大な景色を眺めてのクライミングは最高だった。次回訪れる際はトレーニングを重ねてビックウォールや、高難度のルートにトライしてみたいと思う。