日 程:4/2-3
メンバー:L天久卓也、北村愛、片岡賢佑
1日目
6:30 新穂高温泉登山者用P - 18:00 P32日目5:00出発 - 8:40稜線 - 11:40穴毛谷本谷 -12:30新穂高温泉登山者用P
1日目 快晴
目覚めると抜けるような青空。世の中は花見の週末を迎えているというのに、放射冷却で凍えるような朝を迎えた。新穂高温泉から見上げる穴毛谷が白く輝く。
出合まで林道がとおり僅かな時間でアプローチできる。穴毛谷は幾つもの堰堤が顔を出していて春山の穏やかさを感じさせる。雪崩を恐れていたのも杞憂に終わった。持ってきたワカンは林道にデポして穴毛谷に向かう。
尾根に喰い込む沢筋は岩くず混じりのデブリが覆っている。目的の第2尾根の取付きも雪で埋まったルンゼを詰めていく。高度差300mで急峻。気温が高く、時折上部から音もなく落石が降ってくる。あんまり気持ちの良いもんじゃないので、ルンゼを最後まで詰めずに左岸から巻き上がって稜に乗った。周りは穴毛谷の切り立った黒い岩壁が取り囲み、雪の白と合わせモノクロの世界。人気エリアではなく静か。岩峰には松の木が生え、ルートは和風。
P5ピークに到達すると稜はスッパリ切れ落ち、いきなり土嚢懸垂。しかも一部空中。のっけから攻撃的。コルに降りても次なる岩峰が行く手を阻む。
●1ピッチ目 片岡リード 30m
浅いルンゼ状の岩を斜上。一部ブッシュが邪魔をする。ふだん静かな片岡が声をあげながら突破。その後キノコ雪下のバンドを右から回り込んで稜状に上がる。
ここから簡単な雪稜となるが、気温が高く雪が緩み始める。見上げるP4の岩壁基部まではロープを解いて進んだ。
●2ピッチ目 天久リード 40m
藪の濃い岩壁を抜け、緩んだ雪壁を直上。ピーク直下の小岩壁は浮いた岩に注意しながら5mほど登るとP4の肩。江戸時代からあるんじゃないの?と思わせる古い残置シュリンゲが掛かかった松の木で後続を迎える。
●3ピッチ目 天久リード 25m
核心と呼ばれるP4へのばすピッチ。3mクライムダウンし雪のバンドを回り込んで再度雪壁を登ってキノコの上へ登って唖然。進行方向は空中。歩ける斜面は無い。P4は登攀が難しいわけじゃない。こちらの手数を問われている。
●4ピッチ目 天久リード 10m
順番を無視して自分がリードする。すまぬ北村。今は時間が優先なんだ。コルに降りても垂直の雪壁の登り返しだ。スコップで傾斜を削り、スノーバーで支点を上げながらジワジワ前進。抜けたところでスタンディングアックスビレイで後続を上げる。
急斜面は続くがロープを解いて前進。尾根が広がって安心と思っていると、実は尾根にたっぷりついたキノコ雪。緩んだ雪を踏み抜かないように慎重に歩くラインを見定めていく。
●5ピッチ目 北村リード 40m
P3基部でロープを出す。丸く広がった尾根は複雑形状の岩壁を形成していて、ルート取りが難しい。弱点と思われるヤブ雪壁を直上し、岩壁を避けながら左のリッジへ。頭上のキノコ雪とスコップ勝負を挑むも時間を優先しブッシュを強引に登って雪のテラスに乗る。
●6ピッチ目 片岡リード 45m
垂直の岩壁に右か左かの選択を迫られ、右にロープをのばすが容易ではない。一旦戻って今度は左にトラバース。藪の中にラインを見出す。ズタボロで決まらない雪と格闘しながら岩壁帯を突破。
尾根は雪稜に姿を戻すが、まだP3上には至っていない。ロープを出したくなる傾斜を我慢しながらフリーで稜状に這い上がり、踏み抜きに注意しながらキノコ雪のリッジを一人ずつ前進。P3の頭は小さいながらキノコ雪。ほんの3mだけど落ちたらアウトなのでロープを出す。
●7ピッチ目 天久リード 10m
垂直の雪壁を3mトラバース。足はスカ雪でいつ抜けるか分からない。利くとは思えないスノーバーをよりどころに、騙しながら横移動。リッジから這い上がりキノコの頭に立つ頃には陽がかげってきた。
P3の先は岩壁になっているが、雪のテラスがあり僅かな整地で3人テンが収まった。寒くはないけど、湿った雪ですっかり濡れた靴を抱えて就寝。
2日目 曇り
●8ピッチ目 天久リード 50m
5時スタート。しょっぱなからロープを出す。右側のルンゼ状雪壁を25m直上後左折。傾斜が立ち岩とブッシュの混じったリッジを登って雪壁を稜上に向かう。あと5mで傾斜が緩むというところでロープ一杯。マジか!!しょうがなく雪の斜面をスコップで切り崩し、テラスを作ってスタンディングアックスビレイ。難しいピッチだったけど、ここは朝一で良かった。気温が上がっていたら雪はズタボロだったろう。
●9ピッチ目 片岡リード 30m
しばらくノーロープで高度を稼ぎ、雪割れの多い斜面でロープを出す。容易。
そのまま急斜面を割れた雪に注意しながら登り、P2へ登り上がる。稜線まであと300mと迫っているが、正面には巨大な雪壁がたちふさがる。降雪直後だと雪崩そうな斜面だが、今日はその心配はない。代わりに硬くしまった雪はステップが深く決まらず、高度感が半端ない。標高差150mの雪壁に息を切らせながらフリーで登り切ると、P1。稜線まではあとわずか。あいにくガスが出はじめ先は見えないが、高くて怖い思いをしなくて済む。傾斜の落ちた尾根を、薄い空気と重荷に耐えながらヨロヨロ歩き、ついに稜線へ登り詰めた。
穴毛第2尾根は稜状に5つの小ピークを持ち、そのいずれもが個性的。尾根自体も複雑な形状で核心のP4以外も随所に難しい部分が分散され、とても登り甲斐のある好ルートだった。情報の少なさもこのルートの魅力かもしれない。
ひとつの憧れのルートを登り終え、今はその余韻に包まれている。こういう山行をこれからも続けていけたら最高だな。