戸隠 P1尾根

日  程:2020年2月8-11日
メンバー:L天久、柴谷、北村

1日目(曇り時々晴れ 夜雪)
 7:20上楠川公民館出発 9:00天狗原 12:30熊の遊び場基部 15:00C1
2日目(雪のち晴れ)
 4:30起床 除雪 2度寝 7:00起床 3度寝 15:00偵察&下降路工作 17:00C1帰着
3日目(晴れのち雪)
 6:00出発 9:40登頂 11:40C1帰着 12:15C1撤収後出発 15:00C2
4日目(雪のち晴れ)
 7:00出発 8:30上楠川公民館下山

先週に続き、またまた戸隠。今シーズン3度目だけど、ちっとも飽きない。自分でも半ば呆れるけど、好きなものはショウガナイノダ。
とはいえ、登ったことあるルートばかりじゃ物足りない。今回はせっかく4日間もあるのだし、P1尾根&P2稜継続という野心的な計画にしてみた。結果的には降雪による停滞を余儀なくされ、P1尾根の登頂にとどまったけど、寡雪に嘆いていたはずが、降雪でトレースは消え、核心部は不安定な雪庇が張り出したナイフリッジの通過に緊張させられ、むしろ手ごたえのある山行となった。
八方睨を「なんか物足らん。」と評した北村さんにも、この山の本来の姿を少しは感じてもらえただろう。経験豊富な柴谷センパイは無雪期に縦走でP1を下降した経験がおありだが、積雪期はまるで別物という事で、充分に楽しんでもらえたようだ。
P1尾根。自身にとっては10年ぶりの再登。偵察山行を経て初めて挑んだ戸隠の雪稜ルート。

【1日目】
出発直前にこの冬一番の寒波が過ぎたばかり。今度こそ戸隠も真っ白だろうと期待に胸を膨らませ大阪から500kmをブッ飛ばしてくるも、入山口付近に雪はわずか。またもや「なんか物足らん」という結果を恐れながらの入山。上楠川公民館脇の林道から歩き出すと僅かながら雪が出はじめるが、厳冬期とは思えぬ初冬のような薄化粧。
数年前に廃道となった登山道は、崩壊地1か所を徒渉で迂回するだけで道自体は迷うこともなく、極めて順調に進む。貧雪のおかげでワカンは今回もただの飾り。ダイレクト尾根の末端を見送り、天狗原を過ぎるといよいよP1に向かって尾根が始まる。
細い尾根は時折アップダウンを繰り返す。このころから積雪も増えてきた。ラッセルだったら地味に堪える登下降も、いつ引かれたものかトレースのおかげで難なく進んだ。事前の予報では雪がチラつく曇り空と思っていたが、時折晴れ間の空模様。右手には長大なダイレクト尾根、左手にはコワモテのP3稜が望め、気分上々の3名は戸隠の山懐へ。
巨大ツララを垂れた岩壁とドデカイ雪壁にぶち当たると、そこが熊の遊び場。さあ、いよいよロープの出番。恒例となった「リードしたい人?」の発声に北村愛がすかさず挙手。さすがは物足らん女。ではお願いします。

(1ピッチ目 北村 50m)
簡単な雪壁。最後バンドを超える極小岩壁が核心。そこは雪が少なく段差が大きいうえにヤブヤブ。その突破にちょっと難儀。
ここで2人パーティがちょうど懸垂で降りてきた。我々より1日早くP1に取り付き、登頂してきたとのこと。トレースの主だった。ありがとう。なかなかの美男美女。

(2ピッチ目 柴谷 50m)
簡単な雪壁。ロープなしでも行けそうだけど、落ちると振り出しに戻るので念のため。

その後傾斜が緩んだのでロープを解いて無念の峰の肩まで登り、風のよけられそうな窪地にテントを設営。P2稜を観察するが、ブッ立ち具合がハンパない。果たしてどこを登るのやら。まったくラインが読めない。本当は空荷で先の偵察とルート工作のつもりだったけど、先行者のトレースがあるのでサボってさっさとテントイン。あとは気楽に酒と山談義。「明日は4時半起きだ。日の出前からヘッデン行動だ。」と意気込んでオヤスミの時間。夜、静かに降雪。

【2日目】
6時出発の予定で4時半起床。なんだか重い。寝相の悪い誰かの足がのっかてんのかと思ったら、テントが雪に押されて狭くなっていた。外に出てみると30㎝以上の積雪。除雪と、外にある装備の無事を確認して明るくなるまで2度寝。7時に起きだしてテントから顔を出すが、外は真っ白けで何も見えんのでシュラフに潜って3度寝。雪はしつこく昼過ぎまで降り続き、結局60~70㎝増しのテンコ盛に。これじゃあアタックは無理。雪崩のリスクもデカいし無事に下降できるかが心配になる。そんな我らの緊張とは裏腹に、下界のチャイムがキンコンカンとのんきに響く。
15時過ぎに晴れてきたので、引きこもり君達は健康のために無念の峰まで散歩に出かける。昨日まであったトレースは消え、テンバ付近はすっかり胸ラッセル。
P1テッペンまで直線で300mほど。稜線の木の枝までハッキリ見える至近の距離。ここで敗退は正に無念の峰だ。
時間があるので、下りのトレースをつけに行く。となぜかテンバから100m下げるとトレースがしっかり残っているじゃないか。西面を越えてきた雪が積もったのは上部だけ?おまけにテンバが窪地なので、吹き溜まったのかも知れない。好天は翌日昼過ぎまで続く予報なので、アタックを決める。

【3日目】
まだ星が瞬く暁にヘッデンを灯し行動開始。東の空が白む頃、無念の峰から懸垂でコルに降りたつ。昨日の降雪は先行者のトレースを消し去り、美しい雪稜となって我らを迎えてくれた。胸を突くラッセルに息を弾ませ歓喜しながら核心部へと突入していく。

(3ピッチ目 天久 40m)
蟻の戸渡り。八方睨のより太いがロケーションはこちらの方が恐ろしい。左に落っこちたら200m下の仏沢にまで一直線。右手は雪庇が大きく張り出しおりピッケルを指すとバサッと手元が崩れ落ちた。まだ仏になるには早いのでスノーバー4本ブッさして慎重に渡る。終了点は2人立つのがやっとのナイフリッジ。小灌木で支点をつくって後続を迎える。

(4ピッチ目 柴谷 15m)
鎖場のガリーを直上。出口はできたばかりのチビキノコ雪。アックスで雪を切り崩し抜ける。さすがセンパイ、身のこなしが鮮やか。抜けた先はプラトーでホッと一息つけるが、それもつか間。すぐに次の雪壁。

(5ピッチ目 天久 40m)
ロープを2本引いて登る。吹き溜まりのコルを腰ラッセルで10m進み、ガリーを30m直上。抜け口はスコップで掘削し立木でビレイ。後続はダブルロープで同時登攀。

その後、緩斜面となり尾根は広がる。もはや安全な雪面を3人でラッセルを回しピークを目指す。青空の下、後立もクッキリ見えて景色は抜群で気分もあがる。日差しが眩しいくらいだ。いつもは巨大化して張り出す稜線の雪庇も今回は小さく直上して正面突破。岩場に薄く雪をかぶった雪壁をクリアし頂上に飛び出すと、はじめて頸城の山並みが広がりフィナーレを迎える。
稜線では登頂に浸る間もなかった。八ヶ岳にかかる傘雲に天候悪化の兆しを見るや、後立方面は雪雲に覆われた。先ほどまでの晴天はあっという間に去り、戸隠にも雪がちらつき始める。我々が登頂するまでは雪を落とすのを待っててくれたのかな。山に感謝しつつ足早に下山にかかる。

懸垂2回と蟻の戸渡りでロープを出し、無念の峰を登り返し、2泊過ごしたテン場を撤収。熊の遊び場も懸垂2ピッチで降り、降雪の中足早に下降。頑張れば帰れる時間だったけど、水のとれるダイレクト尾根末端で泊まった。湿った雪はその後も降り続き、不快指数100%のテント生活を送る。

【4日目】
明るくなった7時に出発し、積雪ですっかり景色の変わった登山道を1時間半歩いて上楠川公民館に無事下山。
大阪は遠いから、もう戸隠には行けないかなと思っていたけど、ふたを開けてみれば4週で3回と、東京にいた時よりも通っていた。今回登れなかったP2稜も写真撮りまくったので、来年登れたらいいな。

●柴谷さん感想
何となく憧れだった冬の戸隠、メンバーと天気に恵まれて美味しいとこ取りできました。30年ほど前に稜線を北から西岳に至り、蟻の戸渡を下って周回した記憶だったが、1990年秋でした。
 昨年の春合宿以来の大きな荷物を担ぎ、林道スタートから「速ッ!」と思いながら、そして大雪敗退かと心配もしましたが、十二分に雪山を楽しめました。

●北村さん感想
3週間前に行った八方睨は雪が少なく、聞いていたよりあっけなく終わってしまいました。今回はうまく雪が降ってくれて2日目停滞したものの、P1を登るにはとても良い条件だったのかなと思います。P1はルートは短いながらも変化に富んでいて、岩壁、雪壁、ナイフリッジなど、盛り沢山で本当に面白いルートでした。そういう意味で総合力が問われ、私には力量不足を痛感した山行になりました。

反省点としては
1 リード
直登して行き詰まった。弱点をつくルーファイが大切。
2 雪の歩き方
ラッセルのイメージが間違っていて「膝を入れる」ができていなかった。踏み抜きやスタンス崩すこともあり、抜重やスタンスを崩さない足の置き方が必要。
3 ロープワーク
ランナーの屈曲を減らす、コールの過不足、確保支点の取り方、懸垂用支点・捨て縄の取り方など

反省点を挙げるとキリがない状態ですが、先輩お二人について行き、技術だけでなく準備や判断など多くの学びを得ることができました。次の山行にしっかり生かしてトレーニングを積みたいと思います。天久リーダー、柴谷さん、本当にありがとうございました!! 戸隠、次はP5を目指してみたいと思います。

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