日程 : 2025年1月13日〜21日
報告者 : 望月
1月中旬から約一か月かけて、ベトナム、ラオス、タイでフリークライミング遠征をした。忘れないうちに今回の旅についてまとめておこうと思う。
まずはベトナム・フーロン編。
フーロンは、ハノイ市から北へ約100km、中国国境地帯のランソン省に位置する。フーロンという地名自体はかなり広い範囲を指しているが、岩場やゲストハウスがあるのはその中のYien Tienhという集落周辺になる。かなりの田舎で、まだ交通の便があまり良くないが、岩資源は無尽蔵に近く、田園風景の中にスケールが大きい壁がいくつも屹立している風景は唯一無二で非常に印象深いものだった。岩質は石灰岩で全てスポートルートだが、開拓時期が新しいため基本的にボルトはケミカルアンカーで、間隔も遠くないため安心。グレード感覚は少し辛目に感じたが、しばらく登れば慣れるだろう。
田園風景の中に聳える石灰岩の大岩壁
【クライミング】
滞在中7日間で、5エリアの計27ルートを登った。印象に残ったルートを紹介する。
Head Wall
宿泊したゲストハウスのすぐ裏手にある岩場。アプローチは宿から歩いて10分なので昼食を食べに戻ることもできる。高度差100mほどある巨大な壁で、マルチピッチも開拓されている。東向きで午前10時以降は一日中日陰で快適に登れた。
・War and Peace 6c : ×、RP
前半部分は点々と続くポケットホールドを繋ぎ、後半は強傾斜からコルネを登る。内容が多彩でとても面白い。
オンサイトトライでは、前半の垂壁トラバース核心でムーブを迷ってしまいオンサイトは逃す。その後、ハング部分も遠い一手の処理に苦労したが、なんとかムーブを組み立てトップアウト。その後2回目のトライでRPでき、結果的にフーロンでの最高グレードとなった。

War and Peace (6c)
・Good Morning Vietnam 6b+ :MOS
綺麗なフェイスをポケットホールドを繋いで登る美しいライン。今回は1ピッチ目しか登らなかったが、3ピッチのマルチルートとして開拓されている。基本的にはガバだが、核心はライン取りを迷っていたらハマりそうなので思い切りよく。上部は大レストしたあとに易しいコルネ登り。この一本のMOSは嬉しかった。
・7days Later 6b+ :OS
前傾コルネのガバ系から急にホールドが細かくなるところが難しい。上部はカチ系垂壁に変わり、最後の核心は縦カチで細かい足に乗り込みフィンガークラックを保持してクリップ。この部分はマスターだったら厳しかったかも。その上のマントル返しも悪く、最後まで油断できなかった。
Dragon Wall
宿から4キロほど離れていたのでバイクを借りてアプローチ。ここも壁はかなり大きい。ほぼ一日中日陰で快適に登れた。
・Dusty Days 6a+ :MOS
スタートはハングしており、フィンガークラックを使ってボルダー的なムーブ。後半は傾斜が落ちて快適になる。

Dusty Days 6a+
・Once upon a time in the East 6b :MOS
28mの長いルート。中間部の左トラバースから数mのレイバックムーブが核心。ハング越えの後はラインが右に寄るので長いドローが必須。
La Conche
Yien Tienh集落の中心部から近い。コルネが発達して面白い課題が多いが、南向きの壁なので日中はかなり暑かった。
・Les Fées Colibri 6a :MOS
コルネを駆使して快適に登る一本。アップに最適。
・40° pour Noel 6b+ :MOS
南面の壁で暑い日だったが、一番左端のこのルートは前半日陰なので取り付いた。29mと長く、ラインどりにもかなり悩んだが気合いのMOS。相当疲れたがいいトライができた。

La Concheへは畑の中を歩いてアプローチする
Thành Giong
宿からバイクで10km近く、田畑の中を走ったあと、アプローチで50mほどの峠を越える。この峠からは周囲の大きな岩壁と田園風景が眺められて絶景だった。ここもルート数は20本以上ある。
・Babylone Spirit 6a+ :MOS
前半は快適なコルネ登りだが、上部はホールド少なめの垂壁、かつ岩がツルツルになり、ピンも遠めで緊張した。このグレードとしては難しいかも。
・Expression Minerale 6b+ :MOS
ポケット多めの垂壁だが、案外ラインどりとムーブを考えさせられる。最後まで緊張感があって面白かった。

Thanh Giong 全景
Drone Wall
Dragon Wall の向かい側に位置する壁。大ハングがあり、高難度ルートも多かった。
・Requiem For A Tree 6b :MOS
35mのロングルート。前半はコルネ、後半はフェイス登り。とにかく長いため流石に疲れたが、ムーブが素直で気持ちよく登れた。
・Cam The Meow 6a :MOS
6aと思って気楽に取り付いたものの、序盤からちょっと悪いセクションが続き、核心のフィンガークラックにも緊張させられた。
紹介したルート以外も含め、全ての記録は下記リンクから飛べるので興味ある方はぜひ。なお、30m以上のルートも多いため、ロープは70m、クイックドローは20本あれば安心。
【現地へのアプローチ】
宿泊予定のゲストハウスに相談しハノイからタクシーをチャーターして現地入りする方法が、多少コストはかかるが一番早くて確実だろう。もしくはハノイ市内のクライミングジム「Viet Climb」経由でも車のチャーターを依頼出来るが、料金はフーロンのゲストハウス経由で依頼するより割高らしい。(自分も聞きに行ったが、片道200万ドン(約1万2000円)との事。なお、Viet Climbでもフーロンへのツアーを行っているとの事なので、一度相談してみるのもいいかもしれない。
今回は単独で公共交通機関での移動にチャレンジし、幸い無事に到着できたが、ベトナム語でコミュニケーションが取れないと相当難しい。参考までに紹介する。
ハノイ市東部のGia Lamバスターミナルからフーロン行きのバスがある。1日4本程度とのことだった。なお、このバスターミナルまでは、ハノイ市内の路線バスで行ける。Google mapで検索すれば経由するバス停の場所やバスの時刻などもわかるし、チケットはバスに乗れば係の人から買える。(一律料金なので言葉が通じなくてもOK)
しかし、このバスターミナルからの先の行程はベトナム語が話せないと相当厳しい。自分の場合は移動前日にバスターミナルを一度偵察し、出発時刻などを確認したものの、ターミナル構内には行き先別の時刻表などが全く置いておらず、どの窓口で聞けばいいかも不明。英語のできる職員もおらず、翻訳アプリ等を使うもコミュニケーションが大変。なお、ハノイからフーロンのバス停までのバスのチケットの価格は9万ドンだった。
移動中はGoogle mapで現在地を確認していたが、なぜか10キロほど手前の町(バス停でもなんでもない路肩)で降ろされ、そこにいた物売りのおばちゃんに後はよろしく、とばかり託されてしまう。訳が分からず少々途方にくれていたら、5分ほどで来た別のバスが停車し、すぐ乗れとの事。結果的にはなんとか無事にフーロンのバスターミナルに送り届けられたが、何がどうなっていたのかはいまだに謎だ。
しかし、フーロンのバスターミナルはYien Tienh 集落より10km程度手前の街道沿いに位置しており、そこから現地までの交通手段はタクシーしかない。幸い今回はフーロンのバス停で、別の場所から車をチャーターして来た知り合いと合流できたので良かったが。
なお、ハノイへ戻る際は宿のオーナーにより直通バス(毎日12時発のみ)を手配してもらえた。宿の前のピックアップで料金は30万ドンだった。
将来的にフーロンでのクライミングの認知度が上がり、インターネットやハノイ市内の一般のツアー会社経由で直通バスチケットなどが手配できるようになるのを期待したい。
【現地の宿、生活について】
宿について
今回はこちらのゲストハウスを利用した。
Hữu Lũng Mountain Climbing Hostel – Hung Hue (Hung Hueはオーナーの名前)
この名称はGoogle map、及びFacebook上で使われているが、現地に行くと至って普通の農家で、表に看板などは出ていない。宿泊予約や現地までの車の手配などの相談するには、まずFacebookで繋がる必要がある。
設備はツインルームの客室がいくつかと、共同の食卓、トイレ、シャワーのみのシンプルな宿だが、オーナー夫婦はとても親切でホスピタリティに感動した。食事も品数も多くて美味しく、お腹いっぱいになる量が出てくる。料金は一泊二食付きで22万ドン(約1400円、2025年1月時点)。お願いすれば有料で昼食やバイクのレンタルも可能だ。洗濯機は無料で貸してもらえた。ちなみに歩ける範囲には簡単な売店くらいしかないため、他でお金を使うことは殆どなかった。
なお、宿は現金払いオンリーなので事前に余裕を持って現金を持参するべき。また、各岩場は田畑の中にあり、地元の人に入場料(通常は2万ドン:120円ほど)を支払う必要があるが、お釣りが必要にならないように小銭は多めに用意しておくと良い。2kmほど離れた隣の集落まで行けばATMがあるらしいが未確認。
1月の気候は案外寒い。最高気温20度、最低気温8度くらいで朝晩は結構冷え込む。日本の秋から初冬くらいのイメージで服装を考えておくと良い。ちなみに今回利用した宿は共同の食事場所がオープンスペースだったため朝晩の食事時はダウンジャケット着用だった。
通信事情
今回は、東南アジア数カ国で使えるeSIM(ブランド名:airalo)を事前に契約したため、3GBで13US$ほどのコストがかかった。しかし、実際にはハノイの空港または街中でベトナムのローカル通信会社のSIMカード(プリペイド)を購入する方が全然安く済む。これは、タイやラオスも同様だった。