カナダ・Squamishクライミング遠征

日程:2024年7月6日〜30日

目的地:スコーミッシュ(カナダ・ブリティッシュコロンビア州)

報告者:望月

カナダ・スコーミッシュ。バンクーバーから北へ80kmほどに位置する、白く輝く花崗岩が美しい、米国ヨセミテと並ぶトラッドクライマーのメッカである。2024年のメインイベントとして、7月の初めから月末まで約1ヶ月の遠征を行った。

今回が初めてのスコーミッシュだったが、現地では幸い天候に恵まれ、レストするタイミングに悩むくらい毎日のように登ることができた。メインパートナーは、前半は埼玉在住のSDAさん。後半は奈良のOGTさん。ちょうど同じ時期に関西・名古屋に住む仲の良い名張クライマーのグループや、他にも日本人クライマーが大勢現地に滞在していた。

目次

1.主なエリアと印象に残ったルートの紹介

①Smoke Bluffs

 街のすぐそばの丘(公園として整備されており、クライマー以外も訪れる)の中腹に多くのエリアがあり、この中だけで数百本のルートが存在している。宿から車で5分で行けて、駐車場からのアプローチも近いが、ほとんどのルートが南面または西面なので昼間はかなり暑く、午前中がおすすめ。日陰を求めて移動しながら登ると良い。 

・Penny Lane 5.9   : OS

 スタートはボルダー的。その上で体勢を整え、核心のオフフィンガーサイズをこなす。5.9としてはかなり悪く、かつ長いのでカムのマネージメントが大変。終了点が無く、結局上の樹林帯の立木を使って懸垂下降した。正しくは隣のルートの終了点を使うとのこと。

Penny Lane 5.9

 

・Split Beaver 5.10b  : OS

岩がここを登れと言っているかのような、スパッと割れた美しいクラック。ハンドからフィスト、さらにワイドへ広がっていくクラックとの真っ向勝負は大変登りごたえがあった。5.10bは少し辛い気がする。なお、ルート名の由来を何の気なしに調べたら、ここには書けないようなスラングである。気になる人はご自分で調べてほしい。

Spread Beaver 5.10b

 

・Neet and Cool 5.10a : OS

スコーミッシュTop100にランクインしている超人気ルート。フェイス的なムーブで左、右へとジグザグにトラバースして最後はハングを越えるところが核心。でも落ち着いていけばきっちりジャムできる。人気でいつも混んでいるので朝イチにトライした。

・The ZIP 5.10a  : OS

快適なフィンガー〜ハンドサイズのクラックが続く美しいルート。登りに行った時、ローカルクライマーがフリーソロでクライムダウンしてきたのを見てびっくりした。

②The Chief

スコーミッシュの象徴ともいうべき、幅2km、標高500m以上の大岩壁。麓には大きなキャンプ場があり、北米各地からキャンピングカーで訪れた大勢のクライマーが滞在している。ハイキング道も整備されており、トレッカー、トレイルランナーも多数。

・Tne Exasperator   5.10c : ×、RP

スコーミッシュを代表するフィンガークラック。全長46mで、80mロープでギリギリでロワーダウンできた。(短いロープの場合は中間の終了点を使用)残念ながらオンサイトならず、2回目のトライでRP。核心の第一関節しか引っかからないフィンガークラックでランナウトに耐える緊張感は格別。また、長いルートの最後まで集中力をキープするのも苦労した。

The Exasperator 5.10c

 

・St Vitus dance〜Squamish Buttress (マルチピッチ)計12p, 5.10c : チームOS

エプロンのスラブからの継続登攀で頂上を目指す。St.Vitus dance〜途中で謎のスラブルートに迷い込む〜中間部2ピッチと歩き10分〜Squamish buttress で12ピッチ。

前半のSt.Vitus dance はエプロンのスラブに発達したクラックをひたすら登る気持ちの良いルート。謎のスラブは5.10aらしいがボルト間隔がかなり遠く、なかなかメンタルにくるものがあった。

パートナーOGTさんはButtress 6ピッチ目横の「Heatwave」5.12aをオンサイトしてご機嫌。自分はその横のButtress 6ピッチ目5.10cをギリギリ落ちずに登れて安堵。下山は快適なハイキング道だった。

・Bullethead East (マルチピッチ)4p, 5.10c チームOS

このルートもトップ100で、最高グレード5.10c、4ピッチと取り付き易い人気ルート。自分は1p目5.9と4p目5.10bを担当。いずれも内容多彩で楽しかったが、特に4p目はワイドで面白かった。OGTさんは2〜3ピッチを一気にリンクして登る。この2.3p目も非常に質が良いクラックで、TOP100に選ばれているのも納得。

・Border Line 〜Angel’s crest 上部 (マルチピッチ)計14p,5.10d

7/26、チーフのセカンド・ピークを目指してBorder Line(8p, 5.10d)からAngel’s Crest(5p〜13p, 5.10b) を継続するロングルートを登攀した。Border Lineは核心ピッチ5.10dを担当したが、シビアなフェイスムーブ、美しいフィンガークラックが印象的。その後5.10aでこれ??というど迫力ワイドクラックを残念ながら越えられず交代をお願いする。全体として、内容多彩な素晴らしいルートだった。

Border Line 4p目

 

後半のAngel’s Crestは長大なリッジを辿るラインで、かなりアルパイン寄りのクライミング。しかし、最後の2ピッチは5.10bの豪快なクラックと5.8ながらきっちりワイド登りが必要なチムニー。疲れた身体にはフォローながらかなり厳しく、最後はほとんどフォローで行かせてもらった。

Border Line 3p目

 

取り付きからトップアウトまで14時間、アプローチと下山を入れると18時間という長丁場で、最後は日没後、ギリギリ暗くなる前にトップアウトできてホッとしたが、その後のヘッデンでの下山もなかなか緊張感あり。体力不足など色々課題も見えたが、スコーミッシュ滞在の最後に充実した登攀を行えて良かった。

③Murrin Park

スコーミッシュの街から5kmほど南にある公園一帯に多くのエリアが点在。ショートルート中心。人気ある公園のようで駐車場がいつも混んでおり、駐車場所を確保するのが毎回大変だった。

・Perspective 5.11a : ×、RP

かぶった凹角からスタートし、30m近くの美しいクラックを登る。オンサイトは残念ながら失敗したものの、2回目で無事RP。一目見た時から絶対登りたいと思ったルートでもあり、実は今回遠征で初めて登れた5.11なので非常に嬉しかった。

Perspective 5.11a

 

・Genoside 5.10b : FL

駐車場すぐ上のエリアにある。名前はとんでもないが美しいフィンガークラックで一登の価値あり。

・Zoe 5.10a (スポートルート): OS

スタート1ピン目がかなり高く、緊張させられた。ムーブは面白く長さもあって充実。最後はダイナミックなハング越えもある。グレード感は、日本の5.10aからは多少辛いかも。ボルト位置は遠いようだが、登っていくと理にかなった位置に打たれているのがわかる。今回スポートルートはほとんど触らなかったがこれはおすすめ。

④Highlander Crag

スコーミッシュの街から北へ約10kmほど。住宅街の奥のハイキングエリアの中にあるこじんまりとしたエリア。駐車場からのアプローチが近く、いつも賑わっていた。

・Mouth of Madness 5.11a : ×、RP

Top100ルート。18mとスコーミッシュの中では短めだが傾斜が強く核心が最後に来るので持久力が問われる。2回目のトライで最後の核心ムーブを成功させて登ることができた。苦手なパワー系のムーブを気合で突破でき、かなり嬉しかった。

The Mouth of Madness 5.11a

 

・Cross Road 5.10c : OS

凹角から大胆なフェイスムーブでハングを越えてバンドに立ち、最後はスラブ登りでフィニッシュ。ギリギリオンサイト。内容が多彩で面白かった。

⑤Top Shelf

チーフの北東Slhanayエリアのさらに奥に位置する。Mamquam River FSRという林道を2.7kmほど進んだところからアプローチ道を登って行くが入り口がわかりづらい。標高差200mほどの急登を登りようやくエリアに着くが、巨大な壁にルートの本数も多く、質も高いので頑張る価値はあると思う。

・Cussed Crack  5.10c : (OS)

綺麗なフィンガークラックだが、見た目よりかぶっている。フェイス的なムーブもあり、核心は力尽きそうになったがどうにか登れた。

Cussee Crack 5.10c

 

・Bob’s Your Uncle  5.10b : (FL)

全長35mと非常に長い。後半は傾斜落ちて易しくなるが、最後はカムが足りずランナウトに耐えることになった。

 

2.現地での生活、予算

・往復の航空機

2024年の春から就航したJAL系のLCCであるZIPAIRの成田ーバンクーバー直航便を利用。料金は相当安く、片道7万円程度だが、受託手荷物や機内食が別料金だった。

・ 宿事情

遠征の前半(7/6〜15、須田さん帰国まで)は、Squamish Adventure Innに宿泊。ここは現在おそらくスコーミッシュ唯一の自炊可能なドミトリー宿だ。円安のせいもあり、一泊5000円以上とドミトリー宿としてかなり高額だったが、設備は新しく快適で、スタッフもフレンドリー。またキャンプ場生活以外の日本人クライマーはほぼこの宿に集まったため知り合いも増えた。キャンプ場へ移動後も知り合いを訪ねた際はこっそりキッチンやランドリー(有料)を使わせてもらった。

後半の7/15〜29は、チーフのキャンプ場へ移動。一泊10カナダドルで、宿泊者のみ駐車場を利用できる。このキャンプ場の支払いは封筒に氏名、パスポートナンバー、日程を記入して現金同封してポストに投函するというもので、おそらく現地滞在中唯一の現金払いだった。(後はどこでもカード払い)

・レンタカー事情

滞在中一番コストがかかったのはレンタカー代。空港内から直接乗り出しの場合、最低でも12000円/日以上とかなり高い。20日間以上の遠征、かつ後半は1人で払わねばならないためインターネットで何度も探した結果、空港外に事務所があるレンタカー屋で、8000円/日程度の車を発見できた。(借りる時は空港から送迎してもらえたが、帰国時は午前中早い時刻のフライトだったため、前夜レンタカー屋が閉店する前に車を返し、空港にて前夜泊するはめになった)

ただし、総移動距離は800kmほどだったのでガソリン代は少なく済んだ。

・買い物事情

食料購入はスコーミッシュの街のスーパーマーケットをよく利用した。円安とカナダの物価高のWパンチで、特に肉、魚、野菜などの生鮮食品は日本よりもかなり高い印象。(スコーミッシュ自体は海に面しているが魚が安いということもない)

酒はカナダでは専門のリカーショップのみ購入可能、ただし特に身分証明書などなくても購入できた。カナダは地ビールブランドが非常に多く、色々な種類のビールを試すのも楽しみの一つだった。

 

生鮮食品以外(パン、米、パスタ、缶詰等)は、WalmartやDollaramaなどを利用するとスーパーマーケットより安く買える。

クライミング装備類、ガイドブックなどはスコーミッシュの街中にあるClimb Onという山岳用品店に行けばオールジャンル揃えられる。

・通信事情

今回はAIRALOというeSIM業者を利用した。(合計5GB、約4000円ほど)宿や店舗、公共施設ではWi−Fi電波が利用できるところも多いのでなるべく節約した。なお、チーフのキャンプ場から歩いて5分ほどのところにある観光用のロープウェイの駅は、施設の外でもWi-Fiの電波が24時間利用できるのでかなり重宝した。

・レスト日の過ごし方

天気が良ければチーフのFirst Peakまでのハイキングは快適。昼間は暑いが、キャンプ場は木陰の中なのでのんびり過ごすのも良し。

スコーミッシュの街の中心部に公共図書館があり、冷房・Wi-Fi使い放題。ただし居眠りしていると怒られる。

街の北部にBrennan Park という体育館+プール施設あり。5.75CADでプール+シャワーを利用できる(本当ならばサウナもあるらしいが、滞在時は故障中で使えなかった)。

キャンプ場にはシャワーがないが、暑い日は近くを流れている沢で行水すると気持ちが良かった。

・出費のまとめ

往復航空券 (成田ーバンクーバー往復) 15.2万円

国内交通費 (大阪ー東京往復)       3.0万円

宿泊費(宿10泊+キャンプ場14泊)     8.2万円

レンタカー代(24日分)              17.6万円(25日分)→個人の負担分14.1万円

ガソリン代                1.4万円(約800km)→個人の負担分1.0万円

食料・酒代                5.0万円

通信費(eSIM)                                             0.4万円

その他                  2.0万円  

________________________

合計                 49.3万円

3.アクシデントなど

・交通違反取締りにあう

 スコーミッシュの街中を運転している時に、時速30km制限の道と知らず時速45kmほどスピードを出していたら、道路脇からスピードガンを持った警官が出てきて停車を命じられる。カナダでは自動車保険未加入は違法とのことで保険について聞かれ、レンタカー屋から受け取った書類を全て見せて無事で済んだのだが、書類を手元に持っていて本当に良かった。幸いこの時は警告のみで罰金は取られなかった。

・駐車違反でレッカーされる(友人の話)

スコーミッシュの街中で路駐しようとして、たまたま空いていた(ように見えた)消火栓の前に駐車したところ、消火栓の前は駐車禁止という理由で車をレッカーされた。郊外のレッカー会社の事務所へ車を取りに行き、罰金+レッカー費用を払って車を取り返していたが、400カナダドル以上かかったらしい・・・

・キャンプ場の料金未払いで警告される

チーフのキャンプ場は、雰囲気的には誰も料金チェックなどしていないように見えるのだが、実は結構きちんとしており、料金支払いが遅れたらテントサイト入口に警告メッセージが置かれてしまう。また、料金支払用の封筒の半券が駐車場の利用券で、それを自分の車のダッシュボードの外から見えるところに置いておく必要があるが、たまたま半券が車内に落ちて外から見えなくなった日の翌朝、すかさず警告メッセージが置かれていた。(そのまま対策しなければ車はレッカーされただろう)

現地での日記とクライミング記録を下記リンクにまとめたので、興味があればこちらもどうぞ。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1v5bhzFlqQcTErREreHrrT5gcnO-QeW2kiU82RNBiz5c/edit?usp=sharing

目次