北ア 剱岳 剱尾根主稜

日  程:4/29-5/1
メンバー:L天久卓也、椿尾延弘
ルート :北ア 剱岳 剱尾根主稜

1日目
4:00 馬場島出発 - 池ノ谷ゴルジュ - 9:30 二俣 BC設営 ー 10:50 R10(偵察) ー 11:30 BC帰着
2日目
3:00 出発  - 4:00 R10 - 4:30 コルE - 10:00 コルC - 13:30 門 登攀開始 
- 16:00 ドーム - 16:30 コルB - 18:30 二俣 BC帰着
3日目
4:30 出発 - 池ノ谷ゴルジュ下降 - 5:30 白萩川本流 - 7:10 馬場島 下山

【1日目】晴れのち雨
仮眠2時間半で4時に歩き出す。白萩川の徒渉ポイントは水量多く高巻き。
池ノ谷ゴルジュを足早に1時間で抜け、その後はダラダラと雪渓歩きが続く。
正面に黒々とした剱尾根が姿を現す。久しぶりの再会。
以前訪れた時は真っ白だったけど、今はヤブが露わになっていて、同じ時期というのにこうも違うものか。
二俣にBCを置き、まだ10時前なのでR10まで偵察をしておく。
この日は足が攣った。2週山に行かなかったくらいで。歳をとったからか。。。
昼からは予報通り雨。やる事もないので14時頃に晩飯を食って16時半頃に寝た。

白萩川の割れた雪渓

【2日目】快晴
1時半起床。3時出発。
R10からコルEへ到達するころに明るくなりだす。
天気は快晴。剱を取り囲む山々が静かに雲海に浮かぶ。
見上げる尾根に「緊張する」と椿尾が呟く。
藪混じりの草付き登攀で尾根に乗り、ハイマツを漕ぐ。
しばらく行くと最初の岩壁が登場。

剱尾根下部 ハイ松を漕ぎながら登高


●1ピッチ目 椿尾リード 45m                            一見簡単そうに見えるが、そこそこ難しいフェース。中間部ワンポイント嫌らしい乗っ越しに踏ん切りがつかず時間を掛ける。ここは思い切りが大事。
これを登ると今度は背の高いハイ松のヤブ。今年は4月に降雪が少なく高温だったからか、もはや快適な雪稜ではない。我慢して登りきると前方が開け、頭上に剱尾根の象徴である門が初めて姿を現す。

ここからの写真がスマホの待ち受けになって久しい。情熱を冷まさぬよう、毎日眺めてきた景色だ。気持ちははやるが、まずは目の前の2峰を片付けねばならぬ。

●2ピッチ目 天久リード 15m                          2峰の登攀。タカをくくってフリーで取付いたが、意外に悪く途中からロープを出す。が、ロープが欲しいのは最初の5mだけ

●3ピッチ目 椿尾リード 25m                          リッジの南面を行く。カンテを回り込みハイ松帯を斜上。CSが塞ぐ狭い岩の間をよじ登って2峰上まで。

2峰から細ったリッジを進むとコルCに到達。高度も2,600mを越え息があがる。ここからいよいよ剱尾根の核心部に突入。

核心部が見えてきた

●4ピッチ目 椿尾リード 40m
アブミのピッチ。
アックスだけで登ってやると意気込んでいたが、
何10年も前から打ち込まれた残置ハーケンでは根元が腐ってるものもあり
墜落は許されない。素直にアブミの架け替えで行く。
5m直上後トラバースでカンテを回り込むとビレイヤーから姿は見えない。
ロープは中々のびないが、アブミとアイゼンのきしむ音が延々響いてくる。
力を消耗させられるピッチ。

核心部 1ピッチ目はアブミ

●5ピッチ目 天久リード 40m                          このルートの看板であり華である門の登攀。                    オレにとっては因縁でもあるピッチ。

2013年GW。
雪の多かったこの年、全装背負って3日目に門まで到達。このピッチを登れば完登も見えてくる大事な場面。
不用意にA0した残置シュリンゲはアッサリちぎれフォール。
この時に足を捻挫してしまい、情けない敗退になってしまった。
当時のリーダーと次の機会を待ったが叶う事はなく、今回は仁義を切った上で再トライしに来た。あれから9年経った。

登攀力は椿尾にかなわないけど、ここは自分が行くと決めていた。
すでに13時を回り、行動も10時間を超えている。
時間はおしているが、焦らないよう心を静めてロープを結ぶ。
離陸は下向き三角形に口を開いたフレークから5m上のバンドまで直上。
圧倒的な迫力で立ち塞がるフェースのド真ん中に、左へ斜上する浅いバンドが走る。これが登攀ラインだ。

出だしのフレークに潜り込むと必然的にハングになって体勢が苦しい。
腕をいっぱいいっぱいに伸ばし、アックスをクラックにねじ込みマッチして耐える。
前回はフレーク下に厚いベルグラがあったが、今はそれが無く足が決まらない。
キョン気味に体を上げ、なんとかリングボルトにクリップしフィフィレスト。
ここで時間は掛けられない。フリーにこだわらずA1を選択。
次にバンドに立ち込みたいけど目の前の壁に上体を押さえられてバランスが悪い。
頭上にハーケンを見つけ、ランナーをとってホッと息をつき、A0で立ち上がることが出来た。

ここから斜上バンドが30m以上続くが、
フレークにアックスを利かせ、高度感を我慢して体を露出する。
大丈夫、落ちない。といい聞かせながら長いトラバースに耐え
門の出口に到達したとき、剱岳本峰が明るく出迎えてくれた。
「よっしゃ! 抜けたぜ!」

門の全景 三角に口を開いたフレークから斜上バンドがルート
出だしのフレーク
斜上バンドをフォローする

●6ピッチ目 椿尾リード 35m
ドームの頂上に抜けるピッチ。
緊張を解くにはまだ早い。日当たりのよいスラブからは雪が消え、アイゼンだと逆にいやらしい。
カンテを回り込みガリーに入る。トポでは雪壁となっているが、ここにも雪はなく落石の巣となっている。リッジには届かず、脆い壁にカムで支点を作ってピッチを切った。

ロープを解除しひと登りでリッジに抜けると、ドーム直下のハイ松帯に飛び出し緊張から解放された。
剱岳西面の中心に位置する素晴らしいロケーション。白く優美な早月尾根。眼前に荒々しく迫る小窓の王。遥か僧ヶ岳まで連なる北方稜線。
こんな快晴なのに早月尾根、小窓尾根、三ノ窓にも人影は全く見えず、貸し切りの大パノラマ。

ドーム直下 僧ヶ岳へ続く北方稜線と黒い小窓尾根

剱尾根下半部を終えたところで16時。長次郎の頭へ続く上半部はほとんど雪もなく、このまま継続する必然性を見失う。
何よりここまでこれただけで満足だし、ルートの完結性からも申し分ない。
コルBから懸垂でR2へ降り、池ノ谷を下降して日が暮れる前にBCへ帰着した。
15時間半行動。

池ノ谷左俣を下降

                           

【3日目】曇りのち雨
予報が早まり朝から雨というので、最終日も早出。
2日前の雨と昨日の好天で池ノ谷には新しいデブリが増えている。
ゴルジュ内は初日とは全く違い岩屑混じりの黒いデブリで覆いつくされている。
BCからゴルジュ出口まで1時間で一気に下り、危険地帯を抜けるも、
白萩川本流のスノーブリッジにも幾つものクラックが成長。
3日間でこんなに変わるのかって感じで雪山は崩壊し、季節が進行していた。
充実の山行、充実のシーズンに終止符を打つ。また来年。

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