日 程:2/11-12
メンバー:L天久、小田、西村
1日目
7:30戸隠キャンプ場 - 14:30 1,600m付近JP C1
2日目
4:00起床 - 5:30出発 - 6:00取付き - 18:00下降開始 -22:30戸隠キャンプ場下山
【報告】
とても難しいルートだった。無風快晴、2月厳冬期とは思えないこの上ない天候。近年にない豊富な積雪量。そして見事なキノコ雪の群れ。
初日のアプローチは400m高度を上げ、2日目280mの登攀。3日目は八方睨まで足を延ばして下降というプランだったが、結果、2日目次々と現れるキノコ雪との格闘で時間を使い果たし、ルートの半分もこなすことが出来なかった。完全な力不足での敗退ではあったけど、久々に雪の多い本来の戸隠に取り付くことが出来たのは満足。
【1日目】 晴れのち曇り時々雪
大雪原となった戸隠キャンプ場を横切り、目的の尾根に取り付く。ひと登りすると尾根は細り、ヤブの濃い雪稜となる。1,600m付近のジャンクションをC1とし、翌日の偵察へ。
テンバからひと登りすると、右稜の全容が目に飛び込んできた。ルートは下部、上部に分かれ、中間部にはプラトーとその背後にオムスビ岩がランドマークとなる構成。下部はいくつものキノコ雪が積み重なり、上部は傾斜が増した壁にキノコが育っているイカツイ様相。ただし、1,882mの九頭龍山頂まで標高差は約280m。
ロープスケールでは、さほど大きくは見えず、むしろ時間が余るんじゃないかという気さえしていた。
【2日目】 快晴
暗闇の中C1を撤収し、ラッセルで取付くころに夜明けを迎える。無風快晴で穏やかな天候。いよいよ稜に取り付く。今日中にルートを抜けるのが目標だけど、最低限オムスビ岩上まで前進が必須と申し合わせておく。
●1ピッチ目 20m(小田)
稜の左にあがる雪のガリー。これなら行けそうと小田がリードを買って出る。
少々傾斜が強く雪付きが薄い箇所もあったが問題なし。登りきったところでピッチを切る。
●2ピッチ目 (天久)
リッジ通しに行きたいがルーフ状にキノコ雪が覆っているのでそこは避け、小岩壁を右にトラバース後、雪の凹角に突入。ブッシュ混じりの雪壁は雪がゆるくスタンスは決まらないし、苦し紛れに刺したスノーバーもたぶん効いてない。なんとか雪壁を抜けだしたところが次のキノコ雪の下で頭を抑え込まれる。こいつらをスコップで削り、ハイハイの格好で稜に抜けた。
●3ピッチ目 30m(西村)
目の前はでっかいキノコ雪。正面突破は避け右の側壁にルートをとるがここも悪い。灌木に乗った雪はゆるくスタンスが抜ける抜ける。必死のトラバース後は急雪壁をスコップ振りながら直上。稜に復帰し、しばらくで岩壁にぶち当たったところでピッチを切る。
●4ピッチ目 5m(小田)
チムニー。上部がヤブに覆われて厄介なので空荷になって登攀。とは言え、スコップやらスノーバーやらいろんなものを身に着けていて藪を抜けるのに苦労する。登り上がった雪のテラスでセルフビレイをとって3人分の荷揚げ。ロープがキノコ雪に喰い込んで結構大変。
●5ピッチ目 25m(天久)
ここでもキノコ雪直上は厳しい。左はスッパリ切れた岩壁なので論外。残りは右だが、ヤブに着いた雪壁で踏めば抜ける怖い雪。抜けた穴を覗くと下が見え、思った通り空中に張り出したキワドイ雪。コワイ、コワイ。が、それは見なかったことにしてソフトに体重を乗せ、騙しながら体をあげていく。スコップでキノコを3つ削ったところにしっかりした木が。もうちょっとのばしたかったがここで切った。
●6ピッチ目 25m(西村)
中間部のプラトーが近づいてきた。何とかこのピッチで辿り着きたいところ。出だしのキノコを切り崩し雪稜を進む。ロープもまだ余裕。このままプラトーに乗るか?と思ったら最後のキノコの下で西村はピッチを切った。なんでやねん! と思ったが、近づいてみて納得。これどうやって登るんですか?
●7ピッチ目 15m (天久)
プラトーに覆いかぶさるキノコはデカく、正面はおろか左右とも大きなルーフとなって反りかえっている。かろうじて右の方が足場がありそうだけど、足を置くとあっさり抜けていく。木でゼロピンとってるって言っても、この高度感で落っこちるとちょっとシャレにならん。しかし行くしかない。
抜けるスタンスを騙しながら登り、目の前の小リッジに馬乗りになるまでが恐怖。
しかしそこに乗ってもまだキノコの傘の下。スノーバーでセルフビレイをとりながらゼーハーゼーハ―息を切らせてスコップとスノーソーを振り回し、5mほどの高さのキノコに登路を作って何とかクリア。
プラトー上は雪以外何にもないのでスタンディングアックスビレイで後続を迎える。さっきの抜ける雪の所だろうか、時折「ウワァ!」とか聞こえる。
●8ピッチ目 70m(天久)
プラトーの上はイカしたテンバだが、西村、小田にはイカれたテンバに見えるらしい。それ以上に最悪でも今日中にオムスビ岩の上まで上げなければならんので先を急ぐ。果たして地面の上か分からないもっさりと雪が着いたプラトーを進みオムスビ岩の基部へ。
●9ピッチ目 15m(天久)
右に回り込むと雪のバンドが続くが、雪の下に地面が本当にあるのか不安になるトラバース。壁にはリスも灌木もなくランナーはピナクルにタイオフしたシュリンゲ1本のみ。
●10ピッチ目 20m(天久)
雪のついたガリー。これを登ればオムスビ岩上にあがれる。傾斜は急で登り出しは雪が薄くランナーも取れない、ここを我慢して登りさえすれば、上部は灌木が点在し安心、と思ったら大間違いだった。
上部に行くほど傾斜は増し、灌木に乗った雪が頭を押さえ、スタンスは崩れるわ、ブッシュが絡まるわで全装背負っての腕力登攀で体力を吸い取られていく。途中、フィフィレストを入れながらスコップで登路を築きジワジワ前進していくが、徐々に夕刻が迫ってくる。
残り10m。目の前には最後のキノコ雪が立ちふさがる。自分が登れたとしても、フォローは確実にヘッデン登攀になるし、こんなヤブ壁をヘッデンで登らせるなんて無茶過ぎる。悔しいけど前進はここまでで、シュリンゲとカラビナ1枚を残置し、ロワーダウンでメンバーのもとに戻った。
ちょうどこの時点で夕闇につかまりヘッデンとなる。明日の前進、もしくは敗退。ここでビバーク。いろいろ考えをめぐらす。結論として、明日に持ち越しても完登は時間的に困難。この場でのビバークは座ったままフライシートをかぶって不愉快な夜を明かすことになるし、このバンドも雪が不安定でリスキー。安全なビバーク地はプラトー付近まで戻ればある。まだ時間も体力もあるので、プラトー付近から懸垂で沢へ降り、安全圏まで下降するのがベター。
その後、2ピッチロープを出して往路を戻り、しっかりした木を支点に空中懸垂で沢に着地して、月明かりに照らされながら雪の安定した沢を下降。その日のうちに車まで帰還。
戸隠は今回も一発では登らせてくれなかった