ジョシュアツリークライミングツアー

日  程:2023年4月29日-5月7日
メンバー:CL   穴井(勇) (報告)、穴井(由)

4/30(日)
 早朝にモーテルを出発する。昨日だけで700kmくらい走った。ジョシュアツリーまでは残り300km弱の道のりだ。1000kmというと大阪からだと西は鹿児島の最果て枕崎、東なら岩手のくらいまでの距離らしい。朝から強い日差しを浴びながら砂漠のような風景のドライブが続く。日本では中々みれない景色なので退屈ではなかった。途中、飛行機の墓場みたいなところに数え切れないくらいのジャンボジェット機が放置されていたりしてアメリカはスケールがデカいなと思った。3時間ほど走り朝9時前にジョシュアツリー国立公園の北側の入り口の街に到着。ビジターセンターの隣にあるNomad Venturesというクライミング用品店で50ドル弱くらいのトポを購入し、ビジターセンターに移動して公園の入場料チケット(30ドルで7日間のパス)を購入した。

キャンプ場は公園内に10箇所近くあるが、ビジターセンターのおばちゃんのお勧めはHiddenValleyのキャンプ場とこと。「まぁサイトは満席だろうけど、ダメ元で覗いてみたら」とこと。公園内のキャンプ場は予約制のキャンプ場もあるが、どうやらこちらのキャンプ場は先着順とのこと。入場チケットを入り口の料金所で提示し公園に入る。15分も走らせると公園の由来にもなったジョシュアツリーが延々と生え、花崗岩が無限に転がる大地が広がる。キャンプ場に着いてサイトを見渡すとやはりかなり混んでいて入れ替わり車が入ってくる。40サイトくらいあるが日曜日ということもあり、No2の快適なサイトに滑りこむことができた。

早速テントを立ててトポを眺めながらどこのエリアに向かおうかと悩んでいると、スバルのアウトバックが通りかかり、窓から「日本人の方ですか?」と声を掛けられる。都内のクライミングジムのオーナーHさんが偶然にも来られていたようで、エリアを色々と教えてくれて大変助かった。1週間くらい前から滞在しているらしく夜にまた飲みましょうと挨拶を交わして、まずはキャンプ場の目の前にあるIntersection Rockで登ることにした。
ジョシュアツリーのルートはどれもロープスケールで30m~40mくらいの巨大なボルダーのような形状をしていてトラッドルートがメイン。中にはスポーツルートやボルダーも多くあるが元々ヨセミテに行くつもりでカム類ばかり持ってきていたのでクラックを中心に登った。

North Overhang 5.9(★★★)
1ピッチ目 25m  穴井() まずは簡単なクラックを辿ってオーバーハングの下まで。人気ルートは多少磨かれているようだったが、岩質は大堂海岸みたいにガビガビで超フリクションが効き、テンションが上がった。
2ピッチ目 20m 穴井()  顕著なハングの下から身を乗り出して高度感のある左上クラックを登る。乗り出す瞬間は少し手が悪いので恐怖感があるが、外に出てしまえば快適なハンドジャムに癒される。ちょうどキャンプ場の駐車場の目の前なのでギャラリーが大勢応援してくれた。

フォローを迎えて頂上に立つとちょうど正午くらいになり日差しが凄い。GWは例年なら登れる気温ではなさそうだが、滞在中は寒波が到来してくれたので何とかギリギリ快適に過ごせたという感じだった。1本登って、懸垂で降りてたまらず日陰で昼寝を挟む。午後からはどこか涼しいところに移動しようということでRyan MountainHeart of Darknessを登ってみることにした。公園内のエリア移動は車で概ね10分から1時間ほどで殆どのエリアに移動できる。Heart of Darknessはアプローチで迷ったと午前中に出合ったジムのオーナーに聞いたが、割とすんなりと辿り着くことができた。ドーム状のボルダーの真ん中にきっぱりと割れた隙間の側面に走ったシンハンドのルートだ。隙間のビレイ点は風が吹き抜けて寒いくらい。差し込む日差しが神々しかった。

Heart of Darkness 5.11a  15m (★★★)
 短いが綺麗に割れたフィンガー~シンハンドのスプリッタークラック。最初、自分がトライさせてもらう。出だしはしっかりとロックするフィンガーを5mほど登り、中間部のテラス上で一休みしてから上部はシンハンドセクションとなる。抜け口に近づくにつれ悪かった。最後は微妙な体勢でマントル返すのが面白い。2便目でRP。続いて妻のトライをビレイ。3便ほど出したが最後のシンハンドは手順が重要か。夕方まで休み休みやったがあと1歩というところでRPならず。すっきりとしないが運転の疲れもあったのでこの日は早めに切り上げることにした。帰り道の途中、Keys Viewという高台の夜景スポットに寄ってみたら観光客が大勢いてビックリ。パームスプリングスやコーチェラバレーの方面を良く見渡すことができた。
キャンプ場に戻るとジムオーナーHさんが我々のサイトに来てくれて宴会となった。共通の知人や山の話で大いに盛り上がってしまい日付が変わるころまで飲み明かしてしまった。頂いたワインがとても美味しかった。

5/1(月)
 朝から卵を焼きつつ、今日はどこにいこうかと相談する。妻がもう一度、Heart of Darknessをやりたいというので車に乗り込み向かう。壁に着くと朝一は涼しくて寒いくらい。フリクションもバッチリだ。1便目は惜しくも落ちてしまい暫く休む。流石の2便目は固めきったようであっさりと完登。上からの景色を楽しんだようだった。昼近くなったので朝に作ったサンドイッチを食べながらトポを開き、次のエリアを決める。5.11c4つ星クラックが目に入ったのでこれは面白いかなと思い、Echo TeeのRusty Wallというエリアに向かった。

Wangerbanger 5.11c 15m(★★★★)
 Rusty Wallの看板ルート。駐車場から少し歩くと一段高い丘の上にスバっと切れ込んだ綺麗なクラックが目に入る。トポにもクラシックな1本と書かれている。ビレイ点は丘の上にあり景色もひらけていて居心地がよかった。ちょうど午後から陰るルートだがこの時期の日差しに照らされて壁はアッチッチな感じ。あわよくばオンサイトと企んでトライしてみるが、中間部のシンハンドが1手悪くぬめりに耐えられずに剥がされてしまった。出だしから抜けまで少し被っているのに加えて、サイズも様々で抜群に面白いルートであった。上からトップロープにして悪い1手をああじゃない、こうじゃないとムーブを探って楽しめた。こちらのルートは終了点がないので回収などは回り込んで行った。ジョシュアの他のルートも終了点はあったりなかったりした。夕方近くになり、隣の5.10cにソロのクライマーが来たのでしばらく見学。トップロープ&グリグリでトライしていたが、出だしが核心のようで何度もグラウンドしていて見ているこっちがひやひやした。
そうこうしているうちに日も傾いたので撤収し、妻の要望でキャンプ場のそばの岩場に移動し、簡単なルートを一本登ることにした。

Double Cross 5.7  25m(★★★★)
 キャンプ場の目の前にあるThe Old Womanの西側にあるこちらのルートも4つ星。トポにはジョシュアで最も有名な1本のひとつとある。デシマルの1桁台のクラシックルートはどれも辛い。というかジョシュアは全体的に辛めな印象であった。出だしの5mほどはスラビーだがボルト類が一切なく落ちられない感じのルートが多かった。妻がリードしフォローで登る。日本にあったら5.9+くらいあってもいいような立派なクラックでとても面白かった。隣の5.10aではガイドパーティであろうか?4人組が「Scary!!」と絶叫しながら楽しんでいて和やかだった。


The Flake  5.8  46m(★★)
この日の最後に取り付いたルート。出だしのチムニーをブリッジングで越えると長いフレークを登り、最後はランナウトのスラブとなる。ヘッデンを持たずに離陸したら最後のスラブ手前で日が暮れてしまいボルト2本の15mスラブを月明かりで登ることになり、ツアー中最も気合いが入った登りとなった。後続にヘッデンを持ってきてと頼みフォローで引っ張りあげ、この日のクライミングは終了。最後にとんでもない思いをしてしまった。
キャンプ場に戻り、この日は街で買い出ししたステーキを焼いたりして食べた。公園内は携帯も通じないのだが、夜の星空が綺麗で見ていて飽きない。夜は長袖でちょうどよく、ぬるくなったIPAが乾燥しきった体に染みて美味しかった。

5/2(火)
 昨日のWangerbangerRPしておきたいので、今度は自分がわがままをいって妻にビレイを付き合ってもらう。滞在日程は正味4日間ほどしかないので時間をかけてられないこともあり、午前中だけトライしてみることにした。朝一に壁に向かったのだが日差し全開で既に暑い。1便目はテーピングがズレてしまい落ちてしまったが、2便目で登ることができた。このルートは短いが色んなサイズが出てきてオススメ。何よりロケーションが良い。

昼前に切り上げ、せっかくなので近くのベーカーダムというハイキングスポットに寄ってみる。気温は34℃近く強烈な日差しだったが観光客は大勢いて思い思いに写真を取ったりしていた。肝心のベーカーダムは昔の開拓者が作った小さな水がめであったが、今も水が残っていて風情があった。ダムを見学後は暑くてなるべくシェーディなエリアにしようということでトポを漁ってみたところ、写真の見栄えが非常によかったRubiconのあるSplit Rocksのエリアに向かうことにした。

Rubicon 5.10c 30m(★★★★)
 こちらも公園を代表するベストクラシックな1本と書かれている。駐車場からは10分くらいの1枚岩に贅沢に一本のクラックが走っている。出だしのハンドクラックを5mほど登ったら左に大きく横トラバースを10mこなすと、弓状のフィンガー右上クラックが15m続く。何とも特徴的で一度みたら忘れないようなクラックだ。暑さに加えて回収が面倒な感じだったので自分がリードで登り、妻がフォローで回収することにした。
出だしからトラバースはスリングで大きく伸ばしながらロープが重くならないように登り、フィンガークラックの手前でレスト。5.10cだしこれはいただきと思いフィンガークラックに取り付いたが、登るにつれてクラックの中がガタガタしてきて核心のプロテクションに手間取ってしまう。たまらずオンサイトを逃してしまった。終了点でフォローを引き上げるが中々ロープが重かった。このルートも充実感がありとても面白いルートであった。

Bird of Fire 5.10a 18m (★★★★)
 Rubiconを降りてトポをめくると近くに4つ星の5.10aを発見。せっかくだしと、登ってみたらこのルートもまた良かった。取り付きは4級のアプローチピッチを登って台状の2階テラスからのスタートとなる。出だしの4mほどをランナウトし、キャメロットZ4#0#2でプアプロテクションを決めるとボルダームーブでトラバース。あとはフィンガー~ハンドとなり、最後は被ったシンハンドでマントルを返す感じ。妻がオンサイトし、自分がフォローで続いたが、出だしのプアプロは良くこなしたなと感心させられた。
この日はこれでクライミング終了。帰りにSkull rockという観光地の前を通りかかったので、車を停めて少しハイキングしてみたがどれがSkullなのかよく分からず仕舞いであった。キャンプ場に戻ると木に吊り下げておいた食料袋をリスに荒らされてしまって、チーズやハムを齧られていた。もう生ものは尽きていたのでこの日は缶詰で夕食とした。

5/3(水)
 クライミングが出来るのも残り2日となったが、妻がせっかくなので明日はロスの夢の国に行きたいとのこと。元々、今回のツアーの発案も自分ではなかったのと、直前の転進にも何ひとつ文句もなく付いてきてくれたので感謝しかない。クライミングは本日で切り上げることとする。午前中は公園の入り口近くのHemingway Areaで登った。簡単なルートが多いので初心者にもオススメらしくクライマーも多く見かけた。

Taxman 5.10a  24m (★★★★)
 最終日なのでこの日も星付きルートをたくさん触ることにする。このルート、出だしのフィンガーが辛い。とても5.10aという感じではない。妻がリードで取り付いたが出だしが悪いらしく降りてきたので、交代して登った。スリッピーなフィンガーを少々強引にレイバックで抑えて上がると上部は快適なハンドが待っている。縦向きのダイクみたいなの良い足があるので高度感も相まって楽しい。

Dung Fu 5.7  33m(★)
 デカカムを忘れて冷や冷やしたルート。妻がリードするというので下でビレイしていると上部の洞窟状のクラックで絶叫の声が聞こえてきた。10mほどランナウトしながらブリッジングで越えていったらしい。終了点はないので、別のルートの終了点まで歩いていって懸垂で降りた。

 

Overseer 5.9  36m(★★★)
 Dung Fuのすぐ左隣のフェイスを登りクラックから上部のハングを弱点を付いて登る好ルート、といった感じ。上部で身を乗り出すので高度感があって気持ち良く登れた。

上記の3本をリード&フォローで登ったりしたので結構いい時間かなと思い降りてみると時刻はまだ14時前だったので、最後にもう一本登りたいということでReal  Hidden Valleyに移動した。

Illusion Dweller 5.10b  30m(★★★★)
 The Sentinel west faceに右上するように切れ込み、長く、美しい一本。妻にビレイしてもらって取り付いたのは良かったが、西日にこれでもかと照らされてシューズが溶けるかというほどに熱かった。クラックは快適で右足をスメアしながらグイグイ登れる。最後に核心が待っておりヒヤッとさせられたが、オンサイトで締めることができた。
これにてクライミングは終了。一旦麓の街に降りて買い出しとシャワーを済ませて、再びキャンプ場に戻ることにした。シャワーはHさんから街のスポーツジムで借りれると飲んでいるときに聞いていたのだが、どうも思い出せず、街をさまよったあげく見つけることができなかった。仕方なく通りがかりに見つけたリゾートホテルに飛び込んでみたところ、幸運にも借りることができて助かった。
最後の晩もHさんのサイトにお邪魔して宴会に混ぜてもらう。夜になると結構冷えたのだが、焚き火があったので暖まりながら飲んだワインが相変わらず旨かった。

5/4()
 朝からテントを撤収していると隣のサイトのお爺さんが一冊の本をくれた。「INTO THIN AIR」という96年のエベレストの遭難事件を描いた本だった。どうも読み終わった本だけど捨てるのも惜しいからクライマーの我々なら読んでくれると思ったのだろうか。このお爺さんはちょうど同じタイミングでキャンプ場に来ていて、日中は何をするわけでなく、ラジオをかけて椅子に腰掛け日陰でタバコをふかしているのだった。4日間、クライミングを終えてサイトに帰るといつも「アミーゴ!」と声を掛けてきて会話を交わすのが日課であった。お礼といってもこれといって渡すものがなかったが、日本から持ってきていた鮭ハラミの缶詰が余っていたので、渡すついでに一緒に写真を取り、ロサンゼルスに向けてキャンプ場に後にした。

今回、ヨセミテに行く予定であったがまさかの公園閉鎖ということで何の予備知識もないままジョシュアツリーに転進したが、快適なキャンプ場、アプローチの至近の岩場、無数のルートと充実したクライミングツアーにすることができた。サンフランシスコから行くとしんどいが、ロスアンゼルスからなら2時間ちょっとで行けるのも良い。砂漠の中にあり、本来は冬の岩場であるが寒波のおかげで気温も何とか耐えられるくらいで登ることができた。トポを開くとまだまだ登りたいルートがいくらでも出てくる。しばらくはトポを閉っておいてもう少し強くなってから、またいつか再訪したいと思う。現地で色々とアドバイスを頂いたジムオーナーのHさんにもこの場を借りて感謝したい。

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